39-2-2,38-1
~39-2-2~
「少年性愛の犯罪者ですよ?護衛どころか早々に民警にでも突き出した方が余程世の治安の為では?」
「いや、まぁ」
「美しい物を愛でる高尚さが理解出来ないなんて…流石、七色旗掲げて少数派気取って悦に入るティーンエイジャーは品格の欠如に自覚が無いのね」
「あの、仕事の話…」
「自分より弱いオス相手にみっともなく腰振るメス猿が手前を棚に上げて品格どうこう宣うとは、嗤わせる」
「…」
細やかな抵抗は虚しく虚空に消えた。手持ち無沙汰を誤魔化すようにテーブルに置かれたグラスを手に取り琥珀色を舐める作業に入る。溶け切ったロックアイスに因って酷く薄味になってしまった其れの代えを貰おうとカウンターに視線を遣る。が、誰も目を合わせようとしない。せめて当事者の一人である義父は此方のボックス席に着座しているべきではないのだろうか。
見目麗しい男女が交わす罵声の応酬は傍目にする分には酒の肴として悪い物でもない。薄まったフォアローゼスも多少趣を取り戻す程度には悪くない情景、の筈だ。少なくとも、罵り合いを続ける片割れが身内でさえなければそう思えただろう。
38-1
長きに渡り我が家の食卓を支えてきた薪オーブンがこのところ頗る調子が悪い。組合から商工会の伝を頼って煙突屋を手配した迄は良かったのだが、「ピザ屋以外の依頼は久し振りだ」との事で随分やる気になってくれてしまったらしい。念入りに修理・点検を請け負ってくれるとの事で二、三日程台所が使えなくなった。
「暫くは外食でもするか」とあの人が呟いた言葉に多少の落胆を覚えた。正直、あの人の手料理を数日でも楽しめないと言うのは一抹よりもう少し強い寂しさを禁じ得ない。蓋を開ければ、とんだ杞憂だったのだけれど。
カウンター越しに眺めるあの人は新鮮だ。自分が知らなかっただけで慣れ切った厨房らしい、手際よく調理を進める様を店主、見習い氏と並んで眺めた。
「本当に手伝わなくて良いんですか?」
申し訳無さげに訪ねる見習い氏にあの人が答えるより先に店主が口を開いた。
「良いじゃねぇか、場所貸してやってる側だ…御相伴に預かれるなら多少油臭くなるのも含めて勘弁してやらぁ」
「元々大して手入れしてないじゃないですか…」
却って申し訳無さに拍車が掛かった様子の見習い氏が溜め息を吐く。
「ちゃんと後片付けまでしてってやらぁ…ほれ、ボンゴレビアンコお待ち」
次いで店主のジェノベーゼ、自分とあの人のボロネーゼがカウンターの上に揃った。あの人が隣に着くのを待って自分以外の全員がフォークを取った。
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