回想-6
~回想-6~
思い至るべきだった。耳の敏い彼女なら私より先に近付いてくる足音や、銃を構える音にいち早く感付くだろう事を。彼を腕に抱いた私と自分自身を、秤に掛ける迄もなく取捨選択するだろう事を。
自身の身を盾にしながら私の腕を小脇に抱えた彼女の導きに従って放たれた41レミントンはしかし、向かった先の脅威を摘み取るには余りに脆弱だった。
~33-8~
至近での撃ち合いなら小振りのダブルアクションの方が取り回し良く、不意の弾詰まりも無いから安心だ。
そんな、何処かから引用したような利点を上げつらって、何や彼やと理由を付けて、言い訳して、『あの日の戒め』とは口に出せない儘持ち続けていた。
護身でなく殺傷が目的になるのならと、世話を焼きたがる兄貴に任せてバレルは44口径に差し換えられた。
今更と、悪態や自嘲を浮かべるのにも辟易し、手離すか否かを苦悩する事にも疲れ切って、滅裂に乱れた思考の総てを先送りにしている内に、掌に馴染んでしまっていた。
「…大した手並みだ、あの状況で良くも」
男の遺体を検分した義父殿が感想を漏らす。
「短銃身で防弾着は抜けませんから、あの状況だからこそ他に狙える場所が無かっただけの事です」
身動ぎもせず、視点を前方に据えたまま答えた。隣に腰掛ける相手の表情に予想が付かず、窺う勇気もなかった。
応接室での悶着の後、外から駆け付けた義父殿の部下を伴って病院に移動した。幸いに急所を外していた為早々に治療を終えた我々は他の面子の回復を廊下の長椅子で待ち惚けている。
「あの時、奴が呼んだ応援は道々でワシの部下が片付けとった」
事務所周辺の残党もその頃には統制を取り戻した同胞によって掃討が済んでいたと知ったのは、治療中の事だった。
「従兄弟どのには言うな…恐らく、察しは付いとるだろうが」
首肯して返す。やはり目を遣る気にはなれなかった。
一度で良いから、万人万事に歯切れの良い結末と言うのを迎えてみたいものだと思った。
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