29-4

~29-4~


 恐らく階下では応接役が一団を出迎えている。エントランスホールの中央まで差し掛かった所で饗応に現れた体の義父殿が最初の一発を放ち、其れを潮として上階に控えた我々が包囲殲滅する手筈だった。


 概要を聞かされ促される儘に宛がわれた部屋に押し込まれている現状を省みるに、油断が過ぎるなと自嘲が漏れた。いざ飛び出して見れば銃口の総てが此方を向いていたとて驚くに値しないではないか。


 思いがけぬ邂逅に浮き足立ったのか、或いは寝不足が警戒心を置き去りにしたのか。行き当たるに任せて成り行きに身を任せるのは最早切って切れぬ性分なのだろうと諦めた。


 手離しに後押しを受けてしまった事も今の無防備に一役買っているようにも思えたが、だからと言え彼を責めるのはお門違いも程があるなと、やはり土壇場に在っても思考が整わず思い起こす端からに脳裏を過って行った。


 それでも、条件反射と言うのか、雑多な思考にまみれた脳を置き去りに身体は銃声に合わせて機敏に動いていた。夢中の様な解離を感じながら眼下の標的に向け引き金を絞り続ける。こんなにも無感動で良いのか、いや寧ろ、其処に伴うべき感情を無意識に振り払う為に益体の無い思考が流転していたと考えた方が筋が通りそうだ。


 遠目に捉えた義父殿はと言えば、私と大差無い。互いに此れで溜飲が下がるのだろうかと不安に満たぬ疑問が顔を覗かせた様に思えたが、終わってから二人で噛み締めれば多少紛れるだろうと其処で思考を打ち切った。丁度一本目の弾装も撃ちきった。

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