28-2
~28-2~
「御存分におやりになれば宜しいのでは?あぁいえ、厭味ではなく」
図らずも言い回しが突き放した物になってしまった。慌てて取り繕うが気負いをさせていたら申し訳も無い。
「そう言って貰えるなら、助かるが」
杞憂だったらしい、寧ろ拍子抜けと言った相貌で自分を見詰めている。「全てどうでも良いから一緒に帰りましょう」等と宣うと思われていたのだろうか。斯様な狭量に見られるのは甚だに心外だった。
心の負債について総てが語られた訳ではないにせよ、その桁が自分に計り知れない額面に達しているくらいの事は察しが付いていた。であるなら、その精算に当たる行為は長期的に二人の良好な関係に一助を成すだろうとの楽観を抱くに吝かでない。血で血を洗う無意味を説く自儘な部外者よりは許容する理解者の懐を見せている方が余程正気を保てる。嫉妬に狂うなんて、ね。
「では、一つだけ御願いをしても?」
肩透かしを食らい呆けた様子のあの人はともすればあっさりと凶弾に倒れ兼ねない危うさすら感じさせた。此処等で一つ楔を打っておいてやるのが優秀な伴侶たる自分の役目だろう。
「あぁ、何でも言ってくれ」
それ見た事か、任せろと言わんばかり喜色を浮かべる様が可愛らしくて仕様がない。
「万に一つ、取り返しのつかない深傷を負われたならば這ってでもこの部屋に戻って」
一息を吐く。
「貴方が事切れるその前に、僕の始末も着けて頂けますか」
無論の事、斯様な結末は最悪の一歩手前でしかない。漠然と「お気を付けて」としおらしく告げるよりこの程度のどぎつさが自分の程度に近く、またこの人の耳と脳裏に焼き付くだろうと言う卑近な打算に過ぎなかった。
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