29-2

~29-2~


 数台分のエンジン音がけたたましくホテル前の通りに響く。二階の一室に控えていた私は気取られぬ様に窓辺から通りを見下ろした。


 一列に並んだ車両、その先頭と最後尾から先ず護衛と思しき数名が周辺を警戒しつつ降車するのが眼に入る。次いで間の四両から現れた顔を義父殿から手渡された手元のリストと照合していく。


 成る程「本命」とは良く言ったものだ。店先に降り立った面々は守旧派の幹部連、要は先の抗争で勝者の側に立った連中に相違なかった。


 ~27-4-2~


 「何も破れかぶれの玉砕に付き合えと言うのではない」

 仇討ち、と言う言葉に私が抱えた不安を見透かすように話の先を取った老人は穏やかな笑みを崩さずに続けた。


 「誘き出す材料が有ってな、一時間もせん内に此処に着く算段がついとる」

 灰皿に寝かせたハバナを再び手に取った老人は一服後紫煙を吐き出し伺うような視線を投げ掛ける。


 「無論、此の儘二人で帰ると言うなら止めはせんよ」

 声に含む物は感じない、どちらでも私の好きにして良いと、本心からそう告げる口調だった。


 瞬き、逡巡が唇を掠めた事は否定しない。

 「御一緒しましょう、私にも必要な精算です」

 しかし、か細く残った緣に拘泥する事に自制が利かないと言う点に於いて、所詮私も同じ穴の貉に過ぎない。


 遠く思い出と成り果て兼ねなかった過去を手繰り寄せる好機にまんまと飛び付いているのだ。永くひた隠しにしてきた二枚舌の一方が頚を擡げたかの様な不快感が食道に込み上げる感覚がした。まぁ構うまい。この類の胸焼けに効く薬は心得ているのだから。飲み下すのは相応に難儀でもあるのだが。


 「とは言え、先ずもって彼の許可を仰ぐ事が大前提ですが」

 「当然の権利だな、案内しよう」

 立ち上がり再び先導する老人に従い歩を進めた。

 考えてみれば、抑処方箋が下りるか知れた物ではない。

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