29-1

~29-1~


 一頻り再会を喜び合った後片付け事の為一人地下を後にした。壁面に偽装した隠し扉の先に老人が待っている。


 「何もかも昔の儘ではない様で、私が居た頃はこんな扉は有りませんでしたよ」

 厨房に程近いワインセラーには度々に足を運んだ記憶が有った。急場の代役と言う建前は本業の忙しい兄貴分の手前有って無いような物だった様だ。


 「一体どんな鎬に使った物だかな、全く度し難いわい」

 食堂のテーブル、その一席に腰掛けた老人は何時の間にかスターリング・バチェットを持ち出し卓上で堂々と点検を始めていた。


 「仰せの通りにしましたが…宜しいので?」

 老人は祖父の名乗りを上げる事を拒んだ。私自身彼に関係を明らかにしていない事を察しての事だったとすれば只管に頭が下がる。


 「どう転んでも話の都合が悪い様に思えてならん、少々気の良い敵くらいに思わせておけば良いわい」

 苦笑する老人は得物を置くと此方に手を伸ばした。

 「ついでだ、お前さんのも見といてやろう」


 「驚きました、てっきり懐古趣味かとばかり」

 手慣れた様子でグロックのカスタムを組み上げていく様に感嘆を禁じ得なかった。

 「もう少し素直に褒められんのかね、あの子の皮肉屋はお前さん譲りか」

 老人は組上がったグロックを構え乍ら溜息を吐いた。彼奴め、一体どんな生意気を吐いたのやら。


 「恐らく予想は付いておるんだろうが軍籍に就いておったからな、外の連中もその頃からの部下だ」

 老人は片手に持ったグロックを此方に差し出しもう一方で屋外を指差し乍ら事も無げに良い放つ。ややもすれば手も足も出ず蜂の巣に成っていた私としては寒々しい話だ。

 

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