28-1

~28-1~


 肩掛けに包まれた身体が適度な暖かさにうつらうつらと船を漕ぎ始めていた頃合いに漸く迎えがやって来た。


 「…遅いお着きで、余程此方から御迎えに上がろうかと」

 寝惚けの眦を優しく撫ぜるあの人に此の時まで万端に用意していた皮肉をぶつける。


 「その割にすっかり寝支度が済んでる様だが…良い毛布だな?」

 眼前に跪く様に屈んだあの人は肩掛けに手を伸ばすと愛おしげに薄紫のラインを指でなぞった。


 「預かり物ですので汚さぬ様に…汚れて居ませんね?」

 土埃だの返り血だのが振りかかった様子が無い事に違和感を覚えた。そう言えば上階から銃声はしたのだったろうか?


 「此れの持ち主とは話が着いてる、もう一仕事だけ片付けたら帰ろう」

 穏やかな顔と口調で今度は自分の頬に手を伸ばし輪郭を指先でなぞる。


 次いで掌で頬を包み、片手では足らぬとばかり左手も同様の動きを取った。最後に額をこつんと合わせて眼を閉じる。瞼の端からは光る物が徐ら顔を出していた様に見えた。


 「…心配した」

 消え入りそうな声で囁く様に呟かれた言葉はうっかりすると此の距離でも聞き逃しそうな其れだった。寂しがりの上にも表に出すのは照れ臭いらしい、可愛いひと。


 額を離し上腕で相手の頭を掻き抱く様に撫で回した。ふふと笑い声を溢すあの人が尚更愛おしくなり腕に力が籠ってしまう。


 こんな時にも矢張、此の足りない身体は少し恨めしい。言えば胸中の彼の人は悲しそうな顔をするから、永遠に秘密にしておく心算だけれど。

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