27-4

~27-4~


 「恩人と呼ばれる筋合いなど、持ち合わせていません」

 最早眼前の老人に面と向かう事すら心苦しい、思わず俯いて叫ぶ様にそう告げた。膝上で握り締めた拳が、伸ばした背筋が、脳髄に込み上げる血潮が、そんなものに支えられてしかその場にいる勇気を保てない自身が此の世の何より情け無かった。


 「その自覚が有るだけで十分だわい」

 再び葉巻を手に取り消えかけた火種を再び吹かした老人の声は未だ穏やかな其れだった。

 「娘の傍に居れなんだ儂が怨み言の一つも吐けるとは思うておらんよ」

 そんな筈はない。私が、私こそが二人を守り徹さねばならなかった筈なのだ。


 「彼女はっ…!私を庇って…!」

 言葉にならない、涙は出ない。そんな資格も無い。

 「それならば尚の事、娘が護りたかった物を含めて救えなんだ儂の責だろうて」

 何時しか立ち上がっていた老人は私の肩に手を置き、じんわりと握り締めた。


 「其れよりも今だ、あの子の為に生きているお前さんの今に勝る事ぁ無い」

 恐る恐ると顔を上げると老人の瞳は真っ直ぐに私を捉えている。紡がれる言葉に同様、其処には一片の悪憎すら含んだ様子は無かった。


 「本当に、感謝している…ただ、そうさなぁ」

 肩から手を離した老人は次いで考え込むように両腕を組んで何事か言い淀んだ。

 「それでも気が済まんのであれば、少し手伝って行け」

 此方を見下ろす老人の表情には先程までと異なる邪気、いや寧ろ無邪気さなのか、少々の悪戯心の孕みを感じていた。


 「本命の仇討ちだ、お前さんにも参加する権利は十分過ぎよう?」

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