27-3
~27-3~
二階まで吹き抜けのエントランスロビー、精巧に作られたレプリカの調度品で飾られた寒々しい空間を無感動に歩む老人の背を追った。半ばを少し過ぎた辺りで如何にも適当に其処を見繕ったかのように横柄に近場の長椅子に腰掛ける老人。
「そう鯱張るな、まぁ座れ」
未だ警戒を解き切れず立ち尽くしたままの私は勧めに従って対面に腰掛けた。正面に捉えた相貌は、言われてみれば成る程彼女と同じ空気を感じないでもなかった。
「…宅の居候が此方の御世話になっていると伺いまして」
相手が何を切り出して来るやら気が気でなかった為此方から話題を振った。相手が嘗ての大親分だからでも自身よりも優れた使い手だからでもなく、初めての義父との対面と言う緊張に左胸が早鐘を衝くのを感じていた。
「…知らんなぁ」
銜えた葉巻を右手に持ち直し弄ぶ老人はゆっくりと口内の芳香を吐き乍ら答えた。置場所に困った様に辺りを見回していたので隣席から灰皿を失敬して手渡した。
「あぁ、すまんな」
灰皿を受け取った老人は吸いかけの葉巻を其れに置くと長椅子に凭れ此方を見据え口を開いた。
「居候は知らんが、孫なら預かっとるよ」
「…矢張ご承知で」
到着してからこっち一貫して解せずにいた私の扱いから若しやとは思っていたが。
「顔を見、声を聞けば流石になぁ」
ふっ、と顔を綻ばせた老人は手持ち無沙汰になった右手で態とらしく頭を掻きながら答えた。
「あの子は娘に良う似とる、お蔭で間違いをせんで済んだ」
穏やかな声が却って心を掻き毟った。二度も危うく殺しかけたと知った相手の心境は如何ばかりか知れた物ではないが。
「其れはお前さんに対してもそうだ、危うく恩人を仇と見間違う所だった」
居住まいを正し此方に向き直した老人は今にも頭を下げんばかりだった。冗談ではない。罪悪感ももう限界だった。
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