27-2

~27-2~


 囮を放った効果か、比較的容易に目的地に辿り着く事ができた。好悪入り乱れた昔日の想いが記憶が集束する。嘗ての焼け跡は、厭になる程当時の儘其処に復元されていた。


 『保護文化財の焼失』などと言う見出しで世間の注目を避けるため内々に建て直された我らが古巣はその後間も無く人手に渡り、最近になって業績の不振を狙って老紳士が買い戻しを図っていた。確かな形見分けを受けた私とは違い、場所に固執する事でしか偲ぶ術を思い付かなかったのだろうと今にして思う。


 如何にして侵入を試みるか。考え倦ね物陰に身を潜めていると、正面の扉から現れた人影を視界に捉えた。入り口に数段設けられた階段に腰掛けた人影は懐から葉巻を取り出し火を着ける。二、三度吹かした後緩慢な動きで紫煙を楽しんだ後、私の方に向かって手招きをするのが見えた。


 頭上を見上げると身を隠していた建物の屋上から此方を伺う別の人影が手に持った通信機に何事か囁いているのが見える。警戒はしていた心算だったのだが、どうやら相手が一枚上手らしい。そう言えば店主が従軍経験者の可能性を示唆していた。本職にはとても敵うまい、観念して両手を上げたまま前方の人影に向け歩みを進めた。


 「早かったな、従弟殿は存外容易く口を割ったと見える」

 此方を一瞥して葉巻を銜え直す眼前の老人は無感動な声でそう言うと立ち上がり扉を開いた。

 「何をしとる、殺る気なら疾くにそうしとるわい」

 未だ両手を上げたままの私に呆れた様子の老人は顎先で屋内を示すと返事を待たず建物に入って行く。私はと言えば、溜息を一つ吐いて後に続く。どうも勝手の分からない相手だ。

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