25-3

~25-3~


 「駄目だな、9ミリじゃ窓すら抜けん」

 溜息混じりに座席に戻った店主は再び座席後方に手を伸ばす。

 「そもそもちゃんと当たってんだろうな?」

 いっそ店主に運転を、とも考えたが減速した所に体当たりを喰らうのが落ちと思い直し私も同様に重い息を吐いた。


 「まぁこっちも防弾だ、追い付かれて追突でもされん限りはこのまま鬼ごっこだ」

 次の得物を取り出すのに難儀しているのか、くぐもった声が弾着音の隙間を縫って聞こえてくる。

 「そんな暇は無い」

 多少のアクロバットを覚悟しても追跡を撒く方向に決めかけていた私の目に見慣れない形状のライフルが写った。


 「だろうな…追い払えたら弾代持つか?」

 取り出したライフルにマガジンを装填しつつ訪ねる店主。どうやらブルパップらしいが、矢張見覚えは無い。

 「弾だけならな」

 何かしら考えが有るなら対処を店主に任せて自身は運転に集中する事に決めた。両側面の小路から後方の物とは別の走行音が微かに聞こえた気がする。


 「撃った数覚えとけよ」

 店主が再び天窓から乗り出したのを認めた直後、独特な破裂音が車内に、其の数瞬後に火薬由来の爆発音が車外に響いた。思わず視線を後方に向けかけたのを必死に堪えてハンドルを握り直す。


 「開発中止になったXM29の擲弾射出機構だけ手に入ってな、売り先が見付からんで持て余してたんだ」

 満足げな表情で座席に戻った店主は嬉々として説明を始める。一体組合以外にどんな客層と商売をしているのか甚だ不安である。今後の付き合いを見直す必要を強く感じた。


 「20mm擲弾の相場なんぞ知らんからなぁ、仕入れの3割増しで構わんぞ」

 「分かった、もう結構だ、つーかやめろ」

 こうなると知っていれば無理にでも置いていったのだが、今となっては自身の短慮を悔いる他は無い。どうやら酷く騒がしく物々しい御迎えになりそうだ。窮地に颯爽と現れるコミックヒーロー然とした登場も柄ではないのだから構いもしないのだが、彼からすれば不服どころの話ではあるまい。せめて我々が次の御尋ね者に成らない事を祈りながら目的地へ向けハンドルを切った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る