25-1,25-2
~25-1~
結論から言えば、あの夜店主から聞き出した経緯と言えば毛程にも役立ったとは言えなかった。火災現場の外れに転がる半死体を人知れず運び出さんとした時には周囲に赤子どころか猫の子一匹認められなかったと言う話だ。
生まれたばかりだった彼の存在は店主の知る所に無かった。救い出された後見当識を取り戻した私に殺されんばかり詰め寄られて初めて知ったのだと。それ故に当初は店主の見落としを疑い、怪我も厭わず人目を避けながら足繁く現場に通い詰めた。しかし事件後、現場から乳飲み子の骨が出て来る事は遂になかった。
~25-2~
老紳士から漸くと彼の居所を聞き出した私は室外に控えていた店主から奪い取ったキーを手に事務所脇の駐車場に向かっていた。追いすがる店主の声を無視し駐車場の入り口で誰何に立塞がらんとした組員に一瞥をくれる。思わずたじろぎ身を引いた組員を見て自嘲の笑みが止まらなかった。この程度の連中に預けた私が間抜けだ。恐らく彼にはエスコートの手配不備を散々に皮肉られる事だろう。
数台の高級車の合間に場違いのライトバンを認めた私は運転席に腰掛けると同時にスロットルを回した。エンジンが掛かった段になり漸く追いついた店主が後部座席に滑り込む。未だに何事かを繰り返し尋ねているが矢張り一切構わず、ドアを閉めるのも待たずアクセルを踏み込んだ。
「察しはついてんだろ」
内心の焦燥に反して淡々と出た言葉に頭は冷静なのだろうと自覚することができた。これなら多少速度を乗せ過ぎたとしても問題は無いだろう。
「…大方はな、だから付いて来た」
若干の息切れ交じりに答えた店主は座席の後方に身を乗り出すと数挺の獲物を引き出し揺れに難儀しながら装填を始めた。正直余計な世話にも程が有るのだが追い返す寸暇も惜しかった。助手席に座っていれば蹴り出したのだが。
「勝手にしてくれ、俺もそうする」
常より鉄火場は不得手と言って憚らない癖に何を血迷ったのかは知らないが飽く迄私の優先は彼であると意思表明をしておく。
「大口叩くなよ小僧、今度は組合の手勢も借りれねぇんだ」
一頻りの用意を整えた店主は次いで防弾着を纏い乍ら返した。その点に関して言えば反論の仕様は無い。造反者捕縛の立役者と言えど一掃除屋の個人的な事情に少ない兵隊を割く程人の好い集団でもないのだ。
無言のまま中央通りを西にバンを走らせていると側道を並行する走行音に気付く。
「周辺警備がザルだな、本当に頭が痛い」
キーを受け取ると同時に取り返していたルガーを懐から取り出す。バックミラー越しに店主の手元を確認すると、愛用のM3ソードオフではなくMPが握られている。
「…出処は聞くまでも無さそうだな、随分手癖が悪くなりましたねぇ?」
思えば事務所の警護も数名が同じ物をぶら下げていた気がする。
「押収した後点検が済まずに組員に渡せないでいる分をウチの倉庫にダース単位で突っ込んできやがったんでな、一寸借りるだけさ」
事も無げに答えた店主はバンの天窓から身を乗り出すと路地から踊り出し後方に付いたセダンに向け引き金を絞った。
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