24-2
~24-2~
再び老人が顔を出したのは其れから小半刻を置いて後だった。懐中時計を確かめながら入室してきたからだろうか。変わらずに読めない表情の中にも待ち惚けの落胆を思わす陰が見えた。
「…ぼつぼつ迎えが来るだろうな、無論此方は帰す気は無いが」
蓋を閉じた懐中時計をベストのポケットに仕舞込んだ老人は再び椅子に腰掛ける。
「それではいっそ先にお帰りになっては?此処には僕が残りますから」
懲りずに冗句をぶつける自身の悪癖も大概にしなければとは思うものの、先程の会話も含め言葉尻には決して威圧を込めない老人の佇まいに再び口が滑る。
「そうもいかん、歓待の用意は済んでいるし奴への用件も済んではおらん」
そう言うと老人は思い出したように椅子を立ち部屋の片隅に置かれた手押しの車椅子を寝台の傍らに着けた。
「自分で乗ってくれ、最近重い物は堪えるでな」
抵抗する故もない。触れられずに済むなら望む所だ。寝台の上を這う姿を見られるのは多少癪ではあったけれど、心得た様子の老人は此方が呼び掛けるまで扉に向き直り待っていた。
「てっきり旅行鞄にでも詰められるのではないかと思いましたが」
落下防止のベルトを取り付ける老人に薄ら笑いで次いでの冗句を投げる。自虐ならどうかと試す邪心が無かったと言えば嘘になる。
「奴の不快を煽るのは最も望む所ではあるが、今の所儂は坊に対して含む所は無いんでな」
ベルトに弛みが無いことを確かめた老人は背後に立つとその後は全く黙って車椅子を押した。となれば、自分からも別段話しかける何も無い。斯様な恨みを買うに至った経緯は今夜の寝物語にでもして貰えば良いのだから。
そう成らないのであれば、そんな話は些事に過ぎなくなっている筈だから。
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