24-1
~24-1~
物思いに耽るのにも大概に飽いてきた折、閉じ込められた一室に来客があった。教会では見なかった顔、老年と言って差し支えない男だった。何にせよ、あの人の敵には相違ない。一瞥して後は無視を決め込んだ。
元来の計画では協力関係を取り付けた組員が誘拐の体を装って安全な場所に自分を匿う筈だった。しかしエスコート役は裏口のドアに手を掛けた瞬間に襲われたと見える。連れ出される際に乗せられた荷台には丁度成人男性二人分の死体袋が転がっているのを認めていた。
取り乱して見せた所で此の体で何をしようでもなく、まぁ気に食わないことはこの上は無かったのだけれども、其の内に血相を変えたあの人が飛び込んで来るのだろうと高と腹を括って虜囚の身に甘んじることとした。
「落ち着いたものだ、それとも口が利けんのか」
年の頃にはそぐわない重厚な声だった。改まって老人の姿を視界に捉え直してみると、体格も声に見合う程度には引き締まった其れである様だ。着衣の上からも分かるとなれば年齢には凡そ不相応な其れとも言えるだろうと思った。老人は感情の読めない顔でベッド脇の椅子に腰かけた。
「人攫いなら『騒ぐな』と命ずるのが常道でしょう」
何を言うのだと言わんばかりに溜息を吐いて返す。聞捨てても構わなかったのだけれど、生意気を吐いた所で激昂する類の人間にも見えなかった。案の定低い笑いを漏らすだけだった。
「肝の据わった餓鬼よ、同居人に似たか」
思わず自慢げに鼻を鳴らしたくなる賛辞をぶつけられたが無感動を装った。あまり価値の高い人質と見積もられるのも好ましくはあるまい。其れよりもあの人の事を知っている様な口ぶりが気になった。
「どうでしょう、僕から見たあの人はそう豪胆でもないのですが」
刹那、老人の纏う雰囲気が変わったのを肌で感じた。之には多少戸惑った、然程に迂闊な口を滑らせた実感はなかったのだけれど。
「それは豪胆だろうさ、儂が一番良く知っとる」
音を立てて立ち上がった老人は踵を返して部屋を出た。入室の際よりもやや乱暴に閉められた扉は其れまで気配も見せなかった自分の不安を煽っている様な気がした。
「よもや」とも過る筈は無いけれど、其れなりの覚悟を決める他にその不安の頭を抑える術も無いだろうと察していた。却って都合は良い。囚われの伴侶を取り返しに来る王子に救い甲斐の有る良い顔もしてやらなければ。
叶うなら虚勢の保てて居る内に、と。
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