23ー3

~23ー3~


 「その作業とやら、配下を犠牲にし、私を罠に嵌めても為したかった事ですか」

 良いだけは聞いた、残りの時間を我儘に浪費したとて構うまい。


 『抑々殺された件の二人は組合が監視の為に送り込んできた人員だ、あたら若い命を使い潰す連中に憤り、使われる彼らに同情もしたがその死に責を負うのは私だけではあるまいよ』

 それでも準幹部に取り立てられてからそれなりの年月を過ごした配下では在った筈なのに、最早昨夜浮かべていた形相の真意すら量りかねていた。


 『君については何をか言わんやだろう?胸に手を当て省みるべきは君も同じさ』

 仰る通り、言わんとする所は良く理解している。だからこそ最後の会話の機会を得るべくこの場に残る危険を犯したのだから。


 『何れ全て打ち明けて助けを請おうとしていた相手が、突然降って湧いた小僧に現を抜かし腕を鈍らせるなど遺憾の極地だよ』

 言い返したいがその隙を与えない。ラップトップ上には「あと3分」の表示。


 『此方こそ答えて貰いたい、彼女の喪失は、君にとってその程度の物だったのかと』



 「…あれは私には過ぎた女房でしたよ、今でも、彼女に向ける感情に衰えが無いのがいい証拠です」

 観念するように呟いた言葉ではあった。それでも、言い淀む程に本心から外れてはいない言葉だけに絞り出す労もなかったのだが。


 『それでも尚、と言える程に坊やが大事と言いたいのかい?それなら、此方も一つ白状しよう』

 再び捲し立てるように言葉を続ける老紳士、カメラを壊し終わった周囲の闖入者達は次いで家財を荒らし目的の書類の所在を探り始めた。


 『実の所彼の身柄は此方で押さえていない、先んじて急進派の連中が此処に押し込み連れ去るのを部下が確認している』


 『さぁ、どうするね?一人で何処とも知れぬ彼の所在を探るのか、観念して此方に鞍替えしようと言うなら席を用意する事も吝かでは無いのだがね』

 迫るような老紳士の言葉が紡がれる最中大きく息をつき覚悟を決める。


 「残念ですが、時間切れです」

 言い終わるが早いか、階下に轟音が響き眼前の液晶が全て消失した。

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