23ー4
~23ー4~
「話が出来るのは長くて30分程度と思え」
疲労からか、緊張しつつもどこか脱力したような面持ちの店主が右掌を此方に差し向ける。
「…充分だ」
ホルスターから抜き出したルガーをその上に預け眼前のドアを開ける。室内に控えていた見張りに目配せし室外まで見送ってドアを閉める。鍵束が揺れる音、施錠される音を聞き届けたところで漸く室内を振り返った。
中央には粗末なイスが対面に一組、傍には照明スタンドの置かれたテーブルが一つ。丁度先程の私が置かれた一室に酷似した配置になっていたが、彼我の位置は完全に逆転していた。
「…見通しが甘かったね、まさか既に組合と個人的に連携を得ていたとは思わなんだ」
掠れた声で語る老紳士の表情からは既に毒気を感じない。最早覚悟も坐り最期まで勝手を通そうと言う腹積もりなのだとすれば、そんな虫の良い話に終わらせる心算が此方に無い事を伝える必要が有ろうと思った。
「味方は存外に少なくないと助言を受けまして、試しにと夜毎手土産を下げて方々を回ってみれば成果は思いの外でした」
そう、件の骨董品使いの尻尾こそ掴み損ねの連続ではあったものの、逆襲の手勢を集める地盤固めは十全に過ぎる程行う事が出来ていたのだった。
「説得するにも材料が要っただろう、何を手土産にしたんだい?」
質問には即答せず対面の椅子に腰掛けると、其処で漸く全身に疲労感が伸し掛かるのを感じた。
「見当は付いているでしょう、対策に出るのが一足よりも少々は出遅れた様ですが」
廃工場での会話を想起しつつ返答を返す。
「資金洗浄に足跡を残したのは頂けませんでしたね。正直な所を言えば、どの様な手違いによる物なのかまでは洗い出し切れてもいないのですが」
組合の資金洗浄は幹部連が個々に抱えるペーパーカンパニーの総意によって成立している。
複数の企業が一つの物件の建築、改築の計画を立ち上げる所から全ての手順は始まる。建築資材、雇用する人員への給与、その他諸々の経費として振り込まれた資金は最終的にその物件を賃借した架空の企業が支払う家賃として管理会社に一極集中する事で洗浄が完了する仕組みだ。
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