23ー2

~23-2~


 取り急いでは先程の老紳士より投げられた問い掛けに応える所からだ。


 「そうですね、それも踏まえてお聞きしたい事が有るんですが」

 敢えて多少の怒気を孕ませた声で語り掛ける。受話器越しでどの程度通じるかは不明だが此方の短気焦燥は先方の望む所でもある筈と信じ感情を隠す努力は思索の埒外に置く事とした。


 「件の見世物小屋、誘致したのは貴方で間違い有りませんか」

 液晶越しの表情が曇る、恐らく膝先に走っているであろう其れよりも痛い腹を突かれたのだろう。無理も無い、背景はどう在れ斯様な趣向の商いを許容するなど不本意の極みだったのだろうから。


 『…外の友人がね、街への足掛かりを欲しがったんだよ』

 訥々と語り出す老紳士、既に表情は堕落を自嘲するかの様に複雑に歪曲していた。


 『此方の言葉に堪能な人間を集め置く連絡所程度に留めると、其奴は確かにそう言っていたんだ』

 私に良い訳をした所で、と言いかけて口を噤んだ。此れが自身に向けた叱責だと気付いたからだ。


 『蓋を開ければとんだ非道の園、どさくさに紛れて薬物まで持ち込んで来た時には引き返せない覚悟も否応なしに決まったのだし、踏ん切りを付けるには良い契機になったと納得したがね』

 心にも無い事を、と其れも呑み込んで核心に迫る。脇目に映るラップトップに「あと8分」の表示を捉えたからだ。


 「…そんなに許せませんでしたか、この街を」

 動機など改めて問うまでも無いだろうに、其れを問いかけずには最後の一手を極め切れない自身の無力を酷く悔いた。


 『勘違いして貰っては困るよ』

 乾いた笑いと共に返す老紳士の姿は最早痛々しい。


 『この街は兄が、そしてあのひとが愛した街だ、私にとっても第二の故郷、慈しみこそすれ恨みなど持とう筈も無い』

 しかし眼光だけは鋭さを増して行くのが液晶越しにもありありと見て取れた。


 『最初にこの街を穢したのは紛れも無く今其の頂点に居座る輩さ、私がしているのは、連中が作った枠組みを更地に戻す作業でしかないよ』

 

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