23ー1

~23ー1~


 階下に大勢の靴音が響き、潜めていた自身の呼吸が無意識に一層細くなっていくのを感じる。対面に並べた複数の液晶に映ったのは見慣れない顔触れだった。肌や頭髪の色、顔の造形からしてどうも人種から異なる輩も混じっているらしい。一頻りクリアリングを済ませた闖入者の一人が外に合図を出すと漸く見慣れた顔が入室して来た。


 右手で傍に置いたラップトップを操作し「来客あり」とチャット上に送信する。同時に左手に握っていた端末を操作すると客間の卓上に置き去りにした別の端末が着信音を響かせた。裏口から客間へと歩を進め端末を手にするまでの老紳士の所作を液晶越しに何ともなく眺めていると心なしか右足を庇うように歩いている様が見て取れ思わずほくそ笑む。


 チャットには「あと13分」と返信が送られてきた。誂えたかのように不吉な数字だが会話を引き伸ばし稼ぐ事が不可能と言う程でもない。元来口下手の性分なのだが、と誰にともなく言い訳しつつ左耳に響くコール音に暫し耳を傾けていた。


 『状況は理解できたかい?』

 第一声は想定よりも平静な響きに富んでいた。苛立ちや苦痛も窺えない、無論その様に装って放った一言であろうとは想像に難くなかったが。


 「どうでしょう、お友達の素性を紹介して頂ければ多少は話も掴めそうな気がしていますが」

 周囲を見渡す老紳士、やがて液晶越しに視線が合った。


 『当たりは付いているんだろう?』

 周囲の警戒を続けている闖入者の1人に目配せする老紳士、直ちにその意図を理解した男はその長躯を活かして天井付近に取り付けられたカメラに向かい銃床を突き出した。


 反応としては悪くない部類に入ると言えるだろう、これで「君には関係ない事だ」などと一言断じられてしまえば時間稼ぎに苦心するところだったのだから。ついでに言うなら先程から次々と壊されているカメラも外見だけのダミーに過ぎず、いそいそと目潰しに勤しむ集団を本命の液晶でありありと覗いているのが現状だった。この分なら連中が屋根裏の捜索に掛かる前には此方の想定した時間になりそうだ。

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