21ー4
~21ー4~
教会を臨む路地に辿り着いた時には既に太陽が中天に差し掛からんとしていた。追われる身で舗装路を歩く訳にもいかず、教会を含む町内に達してからは人家の合間や裏庭を道程に移動した為存外に時間を要してしまった。目に入る範囲に人影は無い、乱れた呼吸を寸暇に整えた私は最大限に警戒しながら裏口を目指した。
誰に咎められる事もなく容易に裏口に達した私はそのまま屋内に足を踏み入れる。警報が鳴る様子は無く恐らく何処かしらの配線が物理的に遮断されたのだろうと予測した。靴箱と床の隙間に忍ばせたデリンジャーを手に取り装弾を確認してから慎重に歩を進める。
客間のソファー、その傍らに打ち捨てられた無人の車椅子を視界に捉えた瞬間の心情は筆舌に尽くしがたい。私自信の喪失感は勿論の事、彼の抱える不安を思えば只々その場に立ち尽くすしかなかった。とは言え、考えようなのだろう。元来守る為よりも奪う為の行動こそが性分に合っている。
この一年抱えた儘にしていた違和感の正体も屹度其れなのだろうと思う。現状に満足した気分で閉じた世界の中に彼と自分の居場所だけを必死に縄張りする自身に納得がいっていたとはとても言えない。そんな精神と行為の齟齬は使い慣れた筈のルガーを、その引き金を重くしていたのは自明の事だ。
意識してしまいさえすれば、今日この時に握るデリンジャーの何と軽やかな事か。正直D.Eでも持っていた方が実感も湧きやすかったのだろうが。
何にせよ、凡俗どもの差し向ける万難辛苦を退け押し退けこの街を切り取り言葉通りに愛の城を打ち立てるとするならば、斯様に痛快な事は無い。テーブルの天板裏に収納していたルガーを引き出した私の耳に複数の車両の駆動音が届く。
先ず一歩、降り掛かる火の粉を払って前へ進もう。着実な歩みを為損ずる事さえ無ければ、最後の一歩は確と彼に届くのだから。
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