20-1
~20-1~
あの人を見送って間も無く身体が寝台を欲してしまった。朝日ももう大分高い時分ではあるけれど昨夜から話し通しなのだから仕方ない、と言い訳をして身体を横たえる。一人で使うにはやや広すぎるきらいはあるけれど、こんな時間から貪る惰眠には寧ろ此れくらいのびのびとした広さが心地好い。いっそ迎えが来るまで眠ってしまえば退屈もしないのでは。
そんなとりとめ無い思考の隙間に眠気から来る意識の欠落を感じ始めた刹那、玄関のドアが放たれる音が耳に届く。
はて、忘れ物でもしたのかと耳を澄ます。けれど、聞こえてくる足音は明らかに聞き慣れたあの人の其れとは異なっていた。身構えた所で抵抗の仕様は無いと知りながらも身体は強張ってしまう。咄嗟に歯の間に舌を挟む程度の事はするべきかと思いかけたが、忽ち脳裏にあの人の顔が過り断念する。
まぁ、如何にかなった所でどうせ助けに来るだろう。
そう思い直して脱力していく身体の感覚は在りし日の生きることを投げた自分を想起させたけれど、その頃と較べれば雲泥の差とも言える楽観に思わず自嘲の笑みが溢れた。
既に来訪者は寝室のドアノブに手を掛けている。既に恐れはない、寧ろ其奴の顛末を想像すると憐れみすら禁じ得なかった。精神的な優位に立つ心地好さが貪ろうとしていた惰眠に勝るなら満更悪い状況でもないだろう。
ドアが開いた。
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