17-11,18-1
~17-11~
その後少女の手解きを受けて洗い上げた衣服は染み一つ残さず終業後の私の元に戻ってきた。
「驚いた、帰ったら捨てるしかないと思ってたんだけどな」
「あら、そんな風に見くびられて居たなんて残念です」
既に畏まった言葉を使わずに済む程度には打ち解けた居た私たちは彼女の軽口を互いに笑い合った。
「それにしても、溢したと仰っていた割には大物の染みだったのですね」
揉み洗いを終えた後、自分が預かるから染みの場所を教えろと言われたのが運の尽きだった。
「あぁ、実の所あまり歓迎されてない」
観念するように事のあらましを話してしまった理由は何だったのか。他人に話してどうなるものでもなし、同い年と知れた女性相手に弱味を見せる程に軟派では無い自負も有ったのだが。恐らく彼女の持つ独特の穏やかな雰囲気に絆された末の気の迷いだったのだろう。
「…心無い行いを為す人間と言うには、どんな場所にでも少なからず居るものです」
気付けば持っていた衣服ごと私の掌を握り締め話に聞き入っていた彼女が不意に口を開いた。
「其れでも、正しい行いがそうで在るように、報われる時は必ず来るものですよ」
少なくとも私はそう信じますと付け加え一歩下がった彼女は今度は自身の腰に手を当て胸を張った。
「御覧の通り挫けない事には一家言持って居ますから、信用して下さって良いのですよ?」
無邪気に笑う彼女に釣られて私も笑みを溢した。彼女に言われれば、成る程そう言うものかとも思える。こんな風に他者と心地好く言葉を交わしたのは、本当に久々の事だった。
~18-1~
本当に喉笛を自分の舌ごとに噛み切ってやろうかと思った。成る程「男はお前だけ」、上手い言い回しですこと。
実行に移さなかったのは、自分が溢したのではない水滴が頭上から降ってきてしまったから。
「泣いても構いませんよ、この身体では上手に拭って差し上げられませんが」
其れでも肩口にあの人の頭を抱いて胸を貸す事くらいは出来る。今其れが出来るのは自分だけで、既に貴女の役目ではない。
身も知らぬ彼女に同情とも優越ともつかない思いが想起した。自分の瞳にあの人と同じ物が流れている事が、確かな繋がりを感じさせるようで堪らなく嬉しくも思えた。
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