18-2

~18-2~


 流石に話を続ける雰囲気でもなくなってしまった。尻切れ蜻蛉は申し訳ないと固執するあの人を宥め賺して寝室まで誘うのは骨だったけれど、無理矢理に聞き出したい程の事でもない。元を質せば暇潰しに振った話題が10年物の昔話に変じて返されるなどとは予想だにしていなかった為自分も其れなりに話を整理する時間が欲しかったという事も有る。


 それに銃を帯びる様になった理由もある程度の想像はついた。10年前、其れは話に聞く派閥抗争が起きた時期に近い。先程の話に挙げられた人物の内で現在もあの人の身辺に居るのは二人だけ。極めつけはあの涙、何も無かったと思う方がどうかしている。


 であれば、其れは容易に口を突いて語れるほど軽妙な話題でもない筈だ。古傷を掘り起こす様な無遠慮は、如何な親しい間柄でも道理に外れている。


 などと、一見正当な理由を多様に紐付けて話を打ち切りはしたものの。内心の過半に沸き起こっていたのは間違いなく昔の女への嫉妬だ。恐らく既に彼岸に在る彼女を自分と比べる事の無意味さも理解しながら、それでも凡そ許容出来る話ではなかった。


 未だしも生きている方がマシだった。堂々と正面からあの人の心を奪い去ってやるならばその方が余程都合が良い。故人に成ってしまっている以上、彼女は思い出として神格化されあの人の心の片隅に安置されていると考えた方が自然だ。


 そうでなければ、自分へのプロポーズの全てが寂寥を慰めるだけの間に合わせに成り下がる事さえ否定は出来ないのだから。あの人の想いや言葉を信じているからこそ、その想いの土台に並び置かれた他者の存在を認めざるを得ないのだった。


 「…済まないな、質問に答えなかった上にあまり愉快な話でもなかっただろう」

 隣に寝そべるあの人が甘えるように額を擦り付けながら言った。途中まで完全に煽っておいて良く言えたものだ、と言う不満は取り敢えず飲み込んで眼前の額に口付ける。


 「確かに、聞きたかった話ではありませんでしたね」

 不快にさせた自覚がある以上此方が過度に気を遣う事も無いだろう。思うままに答えた。


 「其れでも、素敵な思出話には違いありません」

 寝物語には丁度良かったと言えなくもない。


 「続きは、また落ち着いたら聞かせて下さいね?」

 あぁ、だから上手に拭えないと言っているのに。仕方のない旦那様だ。

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