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~15-7~
要約するに、幹部連の大多数は私の造反に懐疑的であると言う事らしい。身柄を抑え尋問に掛けようと息巻くのは老紳士等の一部例外を除いた準幹部達と少数の急進派幹部達に限るのだとか。
「あの旦那は幹部連の覚えが良い、手配師としてお前の所に持って行った仕事も元を辿れば十中八九は連中の発信だ」
「必然、俺の覚えも知らずに良くなっていた、と」
話の筋は通る、些か都合が良すぎる様にも思えたが店主の情報には一定以上の信頼を置いている為違和感は飲み込み口を噤んだ。
「元々準幹部連中は先の抗争で標的にならずに生き延びた敗戦派閥の残党と新参者ばかりだ、成果の上がらないトップダウンに文句の一つも言いたくなる心情は理解出来る」
確かに、境遇で言えば我々も似たような物だった。
「しかし派閥争いの延長とは言い過ぎだ、高々引退した掃除屋一人の処遇だろう?」
自身の事を過小評価しての発言でもない。事実として私一人の身柄が状況を変えるべくもないだろう。
「だが事実として対立の空気は有る、煽る連中が居るのだろうよ」
誰の作為かは皆まで語らせるなと言うことか、店主は其れ以上口を開く素振りを見せる事は無かった。
新居に到着したのは其れから間もなくの事だった。町外れ、住宅地と倉庫街の隙間を埋めるように建てられた木造建築は曾て教会として用いられた建物だった。既に宗教的なシンボルを取り除かれた鐘楼はうっすらと苔生している様が遠目にも見て取れる。礼拝堂に繋がる玄関には錆び付いた鎖と錠が垂れ下がり、長く人の出入りが無いことを物語っていた。
「話に聞いた以上だな、此れは」
通りを挟んだ路地に停車した店主の第一声が其れだった。
「隠れ家としてはあからさま過ぎるかも知れんが他にアテも無い」
私は再度周辺警戒を行う。尾行の類は病院を出た段で既に其の気配は無かったものの、此処を知られては愈々街を去らざるを得ない為過度に慎重になっていた。
「正面は警報が有る、一度切るから裏に回ってくれ」
「電気通ってんのか、あの建物」
心底驚いた表情の店主は私の言葉通り裏手の駐車場に車を着けた。小振りなバンが漸く一台入ろうかと言う手狭な駐車場に降り立った私は後部座席のドアを開けた。
「中に入って珈琲でも、と言いたい所だが」
トランクに積まれた車椅子を車外に下ろす店主の方は向かずに声を掛ける。
「分かってる、こいつと食料だけ置いたらお暇するさ」
此方の事情を慮った店主が事も無げに返す。信用の度合いと警報装置の場所を知られるのは別の問題であると了見して貰えるのは有難い話だ。
二人の乗った車を見送った時にも彼は未だ蕩けた様子で私の腕の中に収まっていた。
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