15-6
~15-6~
店主は運転中極端に口下手になる性質だ。私も移動中は尾行者の有無を監視せねばならない都合上会話は其処で一時中断となった。あからさまに背後を振り返る訳にもいかず助手席のシートに身を隠すように後方を窺う。
後部座席には見習いと彼が、未だ体力は全快と言える程ではない。見習いの膝を借りて眠りに落ちているようだ。穏やかな寝息と共に掛けられたブランケットが上下する様に意図せず笑みが零れた。これが逆の立場であれば怒り狂うだろうに気儘な物だと言う若干の呆れも交じっていたように思う。
彼の姿を視界の端に捉えつつ後方の警戒を続ける。しかし気にかかるのは先程の店主の言。
―派閥争い
思い当たる節は当然に有った、この街は以前に一度其れを経験している。一部では口にするのもタブーともされている話題、しかし遡る事10年になろうと言う話だ。一部の個人的感傷を除けば爪痕も癒えたであろう話題を今更になって掘り起こしてきたとはどうしても思えなかった。
当時私は成人も迎えていない、とある娼館の厨房で包丁を振るう場末のチンピラ未満の若者だった。故に抗争の発端も結末も詳細には把握していない。蒙った実害はと言えば、枚挙に遑がないが。
再び信号で停車する、前方に向き直った拍子に溜息が漏れた。釣られる様に此方の顔を窺った店主が口を開く。
「あまり不用意に持ち出す言葉でもなかったな、許せ」
私の胸中を察したらしい。確かに愉快な話題でもないが、10年の歳月は既に激怒する程の情動を奪っていた。
「構わない、其れより続きを聞かせろ」
心身共に手持無沙汰の様な状態の私は指先でダッシュボードをコツコツと叩いて続きを促した。
その後新居への道すがらに語られる店主の話は青信号が点灯する度に中断を余儀なくされる。運転を任せた私の自業自得と言えなくもないが、率直に言えば面倒な性質を持った友人ばかりな事を恨みたい心境だった。
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