15-5
~15-5~
それからの数日は彼と共に病室で過ごした。時折酒場の見習いが食事を差し入れて来たが眼光鋭い彼に奪われ味気無い病院食を押し付けられる。
店主への言伝てを請け負ってくれたので退院日に合わせて迎えの車を頼んだ。まさか徒歩で出ていく訳にもいかない。三歩と歩かない内に厄介事に出会すのは目に見えていた。同様の理由から正面玄関から出ていくのも躊躇われた為病院に話を通し裏の搬入口に車を着ける事とした。其れに合わせて車の偽装を追加で頼んだ店主への謝礼もそれなりを包まされる事になると覚悟したのだが
「金ならもう受け取った」
信号待ちの隙を狙って運転席に座る店主を用意した茶封筒で小突くとこんな言葉が返ってきた。
「…此方の我が儘に対してやけに聞き分けが良いと思ったが、あの人の差し金か」
言わずもがな老紳士の事である。
「珍しく店に出向いてな、修繕費諸々と別に引っ越しを手伝ってやって欲しいと手間賃を置いてった」
別れの礼を失した相手に対しても尚世話が焼ける辺りは流石人格者と言った所か、口さがない連中はお人好しと揶揄するのだろうが。
「無闇に敵の手中に落とせないが手元に抱え込むのも危険な手駒だ、思い通りに出来ないからと言って放っておく訳にもいかんのだろう」
「危惧するべきは敵の手だけとも限らんがな」
口振りからして病室での会話は店主に筒抜けなのだろう。恐らく私の造反に関する噂も早々に掴んで居たに違いない。其れ等の懸案を踏まえて協力を了承した真意を問う心算で投げ掛けた自嘲にも似た皮肉だった。
「派閥争いの延長みたいなもんだ、中立の酒屋が知った事じゃねぇな」
事も無げに良い放つ、乱暴な言い回しに不快感はなく寧ろ懐かしさを覚えた。だが発せられた言葉には気にかかる表現が含まれている。
「派閥争い?何の話だ」
組合の中にもある程度幹部同士のコミューンが存在する事は知っている。出自や年季、あるいは単純な気性の合致から好んで共同の事業展開をするとも。しかし其れはあくまでも組合と言う枠内における曖昧な線引きであって対立構造の図式ではなかった筈だ。
「手前の仕事に過干渉をしないのはお前の美徳だがな 、依頼主の素性くらいは知っておくべきだったって話だ」
存外に味方は少なくないぞ、と付け加えた店主は信号が青に変わるのを認めるとアクセルを踏んだ。
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