15-1

 ~15-1~


 自身の半生を省みる事に如何許りかの意義も見出せはしないが、こんな事の直後に自省が想起しない程愚鈍にも居られないと言うのは甚だ恨めしい。起こった事を悔いるのは良い、ただ事の起こりまで悔いてはいけないと自身に言い聞かせ乍、それでも益体の無いたらればに心が流れて仕様が無い。


 店に連れて来なければ、仕事を受けなければ、早々に街を出ていたら、そも出会わなければ。自己嫌悪の苦痛に苛まれる人間は斯様に浅ましく唾棄すべき思考に手を伸ばすものかと一層自責の念を募らせる。


 分かっていた事の筈だ。私は他者の人生に成り得ない。家庭を築いて愛を育み老成し穏やかな日溜まりの中に没する事を許され得る身上で在ろう筈も無く。現実から逃避するように束の間舞い込んだ幸福に浮かれ果てた挙句危うく其れを失いかけた。生涯において先ず以て間違いなく三指に入る不覚と言って過言ではない。


 人生の本道を見失ってはいけない。幸福は享受する者でなく、況して手ずから作り上げる物にも非ず。


 凡百凡千死屍累々に仕果たした上に勝ち得なければ、この人生には有り得ない


 君は四方や否とは言わないだろうが、良心の呵責に堪え得るかは心配だ。矢面に立つ私を物理的に支えられない自分を責めるかも知れない。傍に在ってくれる以上の支えは無いのだが、其れも難しい。はてさて何と言って納得して貰うべきなのか。


 何はともあれ先ずは目の前の彼に目覚めて貰わなければ、握ったルガーの銃口が私の喉元に向く前に。

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