11-2

~11-2~


 「彼からの頼まれ物はどうした?」

 気を遣ってか私達から視線を外していた老紳士が傍らの男に問い掛ける。


 「此処です、点検組み立てマガジンの装填まで済ましてありますんで」

 男は自身の背中とテーブルの合間からケースを取り出し老紳士に手渡す。中身を確認すると今度は私の手元に其れが回される。


 中にはグロック18、20連ロングマガジンが4本、ストックとその他細々した附属品が整頓して並べてある。


 「断っておくが、組合の規約ではフルオート使用はグレーゾーンだよ」

 後方の会議室を見詰めながら老紳士が念を押してくる。


 「綱渡りは趣味では有りませんね」

 ストックを取り付け本体との噛み合わせを確かめながら答えた。がたつきなどは感じられない、量産品だが言の通り手入れは充分に施されているようだ。その他の細々とした部品は現状では敢えて装着する意味も無いと判断しそのままケースに仕舞い込む。


 「とは言え、目撃者が居なければ灰色は白になるのもこの業界の常だ」

 悪戯じみた表情で此方を窺う老紳士の言葉に苦笑しつつ頷きを返した私はストックの後部を肩に当て引き金を絞る。テーブルの向こうから響く其れと酷似した発砲音が至近距離で鼓膜を揺らす。対照的に向こう側の銃声が静まる一瞬を聞き漏らさずに安全地帯から飛び出した。



 「約束の通りの額を包んでおいたよ…とは言え、今日の御活躍に見合うかは疑問だが」

 事務所の応接室で対面に腰掛けた老紳士はシュラック仕上げの光沢あるテーブルに恭しくアタッシュケースを乗せた。応接室の調度品は何れも時代を感じさせるアンティークで揃えられている。聞いた話では組合が未だ街の一角を牛耳るだけの小さな稼業であった頃の品も有るのだとか。一寸した時間遡行でもしたかのような気分に陶酔気味の私は眼前に置かれた大金にも然程と言った表情をしていたらしい。


 「いえそんな、寧ろ見合った働きが出来て居たのか疑問な程で」

 謙遜ではない、事実攻勢に飛び出して後は盛大な肩透かしを食らったのだから。潤沢な装備に身を包んだ賊ばらはさぞ手練れの集団だろうと覚悟して飛び出したにも関わらずこうして五体満足に歓談が出来ている。数に任せて押し掛けた連中の腕前はと言えばお粗末に尽き、覚悟の程はと言えば此方が押した分だけ引いていくと言った有り様だったのだ。


 体勢を建て直し救援に向かおうとしていた玄関の警備と上手く挟撃の形を取れた為大多数の襲撃犯を捕縛することが出来た。身元を割り出し黒幕への手懸かりを得ようとしたが何の事はない、食い積めたチンピラ共が金で雇われただけの事であることしか現状では掴めていないらしかった。

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