11-3
~11-3~
願わくは連中が自己保全の為に依頼主の情報を得んとするだけの知恵を持ち合わせて居る事を祈るばかりである。組合の追及尋問については周知の事実で有る筈だったのだから。
「実際思いがけぬ程に小物揃いでしたし…何かしらの陽動の線も疑うべきなのでは」
我ながら出過ぎた発言だと自省したのは全て言い切った後だった。私の指摘が無くともその程度の可能性に思い至らぬ相手ではない。どうやら久々に立った鉄火場の熱に浮かされているらしいことに今更気が付いた。先程から感じている浮遊感にも似た現実との乖離も恐らく其れが原因なのだろう。
「正しく其れだ、此れまでの経緯から言って今回の襲撃は明らかに杜撰、別の狙いが有ったと考えるのが妥当だろう」
対面の老紳士は上体を傾け考え込む姿勢を取る。
「だが幹部連中を一掃する好機を差し置いて狙う本命と言って思い当たる物が有るかい?」
自身には見当もつかないと言いたげにソファに凭れた老紳士は文字通りお手上げと言うポーズを取る。どうやら気分が高揚しているのは私だけではないらしい。互いに常と比べても落ち着きが無いのは傍目にも明らかだった。
「尋問でも成果が得られなければ次の手掛かりは恐らく其処からになるのだろうね」
十中八九は其処を探る他なくなるのだろうが、と付け加えた老紳士は立ち上がり私に手を差し伸べる。
「何にせよ一応の危機は回避できた、改めて礼を言うよ」
私も立ち上がり手を握って応えた。
「一線を退いた身でお役に立てた事は幸いです」
手を離した私は老紳士の導きで応接室の入り口に歩を進めた。
「あぁ、そう言えば今日渡した頼まれ物についてだが」
思い出したように顔だけを此方に向けた老紳士が顔だけを此方に向け口を開く。
「持って帰ってくれて構わないよ、何れ役に立つことも有るだろう」
言外に「今後も鉄火場に立たせる事は否定できない」と告げているのだろう。その覚悟は既に出来ていた為思う所は無い。
「では、遠慮なく頂戴します」
相変わらず申し訳なさそうな表情を隠せない老紳士に謝辞を告げた私は応接室を出て玄関へと向かった。
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