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~10-4~
「…自分の意思を余所に立ち位置を定められるのは気持ちの良いものではないですね、少なくとも貴方の味方ではあると自負していたんですが」
反抗の意思を隠そうともしないあの人は横柄に返事を返す。自分の肩口に顔を埋めてきたので苦心しつつも腕の先で顔を撫ぜ返してやった。
「私もそのつもりだよ、ただ周囲は未だ我々が和解していないと言う認識でいる」
あの人の態度を咎める様子の無い手配師さんはキッチンの男に珈琲の代わりを所望すると言葉を続けた。
「要は全員が納得出来る程度に中立としての体裁が整っているのが君だけなのだよ」
理由の説明を終えた手配師さんはお代わりを注ぎに来た男に謝辞を述べた後それきり口を閉じた。後はあの人の返答次第なのだろう。
「…条件を幾つか、質問したいことも有ります」
表情は変えずに顔を上げ手配師さんを見据えるあの人。思うに、自分がこの表情に見覚えがなかったのは最初から仕事用の顔に切り替えていたからだったのかも知れない。
「可能な限り応じる」と言う手配師さんの言質を取ったあの人は会合の日時、参加人数、報酬の金額を確認し幾つかの装備の調達と提示金額の倍増を要求し認めさせた後
「当日はこれも傍に置きます、不可能なのであればお断りさせて頂きます」
そう話を締め括った。
「…唐突だね、しかも順序が逆ではないかな」
手配師さんの声色には思ったよりも驚きが少ない。尤も先程までよりも強く抱き留められてしまっているため振り向いてその表情を除き見ることは出来なかったが。
「具体的な日時まで聞き出しておいて断る事の意味に思い至らない愚図でもないだろうに」
これは自分も手配師さんの言い分に同意せざるを得なかった。しかしそれ以上にこの人の言わんとする事も既に理解していた。此れは条件をつけているわけでも要望を述べているわけでもない。既に決定した事実を伝達しているに過ぎなかった。
結局諸々の事情を加味して折れざるを得なかった手配師さんがこの人の我が儘に巻き込まれた自分に対し謝意を示す必要は無いだろうに。『弱者に対し冷酷になれないのだから幹部の席を取り落とすのだろうな』と勝手に納得して回想を締め括った。
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