10-1

~10-1~


 幼少の頃、「施設を抜け出して移民街の新年祭を見に行こう」と言う悪童達の企みに便乗した時の事を思い出す。深夜にも関わらず妖艶な輝きを放つネオンによってきらびやかに彩られた街の大通りはその何もかもが新鮮だった。


 はぐれぬ様に互いの手を確りと握り合った自分達は溢れる人の波を掻き分け広場へと辿り着いた。喧騒は一際大きくなり中央では鳴り物が規則的な金属音を上げている。何事かと人垣の隙間を覗き見ると、其処では異形を象った着ぐるみが鳴り物の拍子に合わせて縦横に暴れまわる姿が見えた。


 好奇心旺盛な悪童の一人が「もっと近くで見よう」と此方を振り向いた刹那、けたたましい炸裂音が広場中に響き渡った。


 今思い返してみると、その時振り返った彼こそ鉄杭で貫かれた青年だったのではなかったか。



 その時耳にした炸裂音にも似た乾いた音が横倒しになったテーブルの向こうから聞こえてくる。頭の上から聞こえる風を切る音、テーブルに仕込まれた鉄板に鉛玉が跳ね返る金属音に邪魔され聞き取り難くはあったけれど。それでも独白に浸る程度にはあの時の爆竹の音と似ているようだった。


 「どうにもいけませんな」

 テーブルの影に身を潜める一人が口を開いた。3ヶ月前手配師さんと共に屋敷を訪れた件の気が利きすぎる男だった。口調はその時と変わらず飄々としていたけれど、目は笑っていない。


 「数が多いですね、装備も良い」

 自分を片手で抱き止めるあの人が言葉を返した。無論もう一方の手には武骨な光り物が握られている。


 「SMGは御法度にしてあったんだが…何処から仕入れたかも聞き出さねばならんね」

 テーブルに隠れた最後の一人、手配師さんが口髭を撫でながら考え込むような姿勢をとる。年の功と言うやつなのか、四人の中では一番落ち着き払った様子に見えた。


 「尻尾を掴む心算が牙まで剥かれては敵いませんね」

 銃声の合間を縫うようにして応戦するあの人。テーブルから顔は出さず銃口だけを音のする方に向けて発砲しているが、床に倒れこむ音や呻き声からそれなりに効果が出ているらしい。


 「やはり無理を言って来てもらったのは正解だったかな…坊やには災難だったが」

 手配師さんが申し訳なさそうに此方を見下ろしてくる。


 「御構い無く、屋敷に一人より今の方が余程安心です」

 震えずに声が出せるか不安だったが問題ないようだ、自分の言葉通りこの人の傍が一番安心できる証明が出来たことに内心満足した。

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