6-3

~6-3~


 控室には自分を含め7人の演者が居た。何れも年の頃は同じような物に見えたけれど、その様相は露骨な程七者七様であった。


 舞台から下りる度に火傷の跡を増やす少女、日毎半身の感覚器官を削ぎ落とされていく少年、日増しに繁殖期の家畜の様な嬌声を上げ肛虐をねだる青年。自分はと言えば黒ずむ程の痣を全身に受け、痣の浮く場所が無くなったと見えればこの有様である。


 一頃は尊厳こそ失えど苦痛ではなく思考が出来なくなるほどの快楽を与えられる青年を羨んだ時期もあったが、行き過ぎた凌辱の果てに鉄杭で突き上げられ事切れる様を舞台上で見てからは周りを羨む事の無意味さを知った。


 それ以降、他の演者が変化する様を観察するのも、遂には生き残りを数える事すら辞めてしまった。自分の番が何時来るかすらわからないのだから。


 いや、目を背けてはいたものの、その時が来る事を知る明確な指標は確かに有ったのだ。最初は右腕、次に左足、右足、左腕と眼前に落ちていく其れ等を見て「あぁ、次が最期なのだな」と否が応にも知ってしまっていた。


 そしてその日はやってきた。自分の檻の鍵が開く音、従業員の足音と自分を運ぶ台車の車輪が転がる音。全てが実際の距離よりも遠くに聞こえた。自分が其処に有ると言う感覚すら朧げで、そのまま無感動に終われる事はきっと幸福なのだろうとすら思って居た。


 耳慣れない乾いた音、土の詰まった麻袋を落とすような鈍い音。なんだろう。身をよじり視線を其方に向ける事すら出来る体力が残って居なかった。床に俯せたまま、中々訪れない従業員に疑問も持たず、視界の端を流れる赤黒い水溜りの流れる先を無心で追っていた。


 体を起こされる。あぁ、はいはい、時間ですね。未だ水溜りの方に向けたままだった顔に手が添えられる。温かい。


 「生きてるのか?」

 妙な事を聞くなと思った。返事をする気も無かったが、聞きなれない声の持ち主の正体は気になったので其方に顔を向けてみる。案の定知らない顔だ、新入りだろうか。酷く驚いた顔をしている。無理もない、こんな只の肉塊が未だ生を保てている理由など肉塊自身分からないのだから。少し可笑しくなって自嘲の笑みを浮かべる。


 「 」

 返事をした心算が声が出ない。あぁ、そう言えば何時か麻酔が不完全な時に叫び過ぎて血を吐いた事が有った。


 「そうか」

 言わんとした事が正しく伝わったのかは分からない。その恐らく新入りらしい男は自分を抱きかかえたまま廊下を歩いて行く。台車に載せない事が不思議だったが。別に構わない、それを気にする事に意味が有る程残りの人生が十全に有るわけでもないのだから。

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