6-4

~6-4~


 抱きかかえられていた感覚が失せると共に目が覚める。眼前には先程の夢で見たのと同じ顔が有った。


 「あぁ、また起こしたか、敏感な奴だ」

 あの人が申し訳なさそうに苦笑する。その顔が好きです。安堵感が込み上げる。涙腺からは別の物が込み上げてくる。


 「 」

 声に成らない声、意味も無く開閉する口唇、頬には冷たい物が伝い頬の熱さを自認させる。


 「…どうした、怖い夢でも見たのか?」

 自分を寝台に下したあの人は其の儘自分の横に寝そべり体を寄せる。頬に手を添え眦を拭う。その手の感触が好きです。堪らずあの人の方へと寝返りを打ち胸元に顔を埋め体を擦り付ける様にして体温を味わう。鼻腔を擽る貴方の匂いが好きです。


 「大丈夫だよ、此処に居る」

 頬を撫ぜていた掌を背中に回し一定のリズムでぽんぽんと叩くように撫ぜていく。あぁ、それ大好きです。堪え切れなくなった自分は声を上げて泣き出した。


「泣いても良いよ、大丈夫」

 背中に回された腕が強く自分の身体を引き寄せる。もっと、もっと強く抱いて。声には成らないので自分の身体を押し付ける事で主張する。それに応えるように今度は両腕で抱き締められる。言わなくとも伝わる心が嬉しい。


「好きなだけ泣いて、疲れたら寝てしまうと良い」

 抱き締める腕は力強く、でも決して苦しくない。


「大丈夫、明日の朝まででも気が済むまでこうしているから」

 そして耳元で囁かれる声は只管に優しい響きに満ちている。



 気付くと本当に泣き疲れて眠ってしまっていたのだけれど、今度は夢を見なかった。

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