4-3
~4-3~
「どうぞ、俺の奢りね」
橙黄色の液体を湛えたグラスがカウンターに置かれる。此れは負けた腹癒せなのだろうか、謝辞ではなく恨めし気な目線を返す。
「あ、ごめん忘れてた」
自身の無作法を悟ったバーテン見習いは慌ててグラスにストローを挿す。一連の遣り取りを遠目に窺っていた店主が声を掛ける。
「身内みたいなもんとは言え一応客として来てるんだぞ、気を抜き過ぎだ」
憧れの師からの苦言は少々堪えたらしい。酷く落ち込んだ調子で縮こまってしまった。
「一応とか言ってないでちゃんと客として接遇しろよ、この惨状で人の事言えんのか」
見兼ねたあの人が助け船を出す。成る程あちらの二人の間には無造作に広げられたパイプの山が酒場らしからぬ情景を作っていた。
「それもそうだな…おい、客と呼べる連中じゃないからもう少し適当で良いぞ」
巫山戯んなとあの人が言葉を返すと二人して高笑いをしだした。仲が宜しくて結構な事ですね。あぁ妬ましい。ふとカウンター越しに見習い氏の様子を窺う。表情は幾らか和らいでいるものの、先程とは異なる意味で萎縮している様な気がした。心なしか頬も赤らんでいるような。
「どうかされました?」
怪訝に思い真意を問うてみた。
「ううん…ただ、やっぱり優しいなぁって」
其れは直ぐに許してくれた店主を指して言っているのか、或いは庇ってくれたあの人を指しているのか。返答次第ではもう何局か勝負し干上がらせることも辞さない心算である。
「あ、いや違うよ?変な意味じゃなくてね?」
自分の抱いている疑念を視線から察したのか慌てて取り繕う見習い氏。どうやらあの人を指して言っている事には間違いないらしい。あぁ妬ましい。来店してから募る一方の苛立ちを抑えようと戦利品に口を付ける。
一瞬本当に苛立ちが脳裏から失せた。驚愕する自分に対し満足げな笑顔を返す見習い氏。
「美味しいでしょ?高いんだよ其れ」
本当は仕事終わりの息抜き用なんだからねと添えた見習い氏は洗い場に溜まった食器類を片付けにその場を離れた。ゆっくり堪能しろと言う事なのだろう。好意に甘え勝利の
年相応に安上がりな自分に多少嫌気は差したがそれすら宥恕出来てしまう味に只々舌鼓を打った。
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