3-4

~3-4~


 その後暫くは他愛のない世間話を肴に火酒の芳香と咽を焼く感覚を存分に味わった。足元の悪さも有ってか他の客が店を訪れることも無く気付けば日付も変わろうかと言う時刻、話題は凡そ他人の耳に入れられない内容にまで及んでいた。要は今日の仕事の概要についてである。


 「…斯く斯く云々、哀れな青年は掃除屋の買収に失敗した訳だ」

 程好い酩酊感に心を委ね掃除が行き届いているとはお世辞にも言えないカウンターに身を委ねながら事の顛末を具に報告した。酒と銃器の他に情報も取り扱うこの店ではこれが会計代わりになる。この店に客足の少ない最大の原因は要するに、顧客の大多数が酒以外を目的にしか訪れない為だった。


 「金庫の中身は確かめたのか?」

 最早仕事をする気配も失せた店主は趣味の蒐集品であるパイプを磨いてはカウンター上に並べる作業を続けながら問いかける。


 「必要のない行為で在らぬ疑惑は負わない主義だ」

 処理に赴いた人員が強引に開けられた金庫と其処に置かれたハーブの束から何を想像するかは明白である。


 「そもそも連中は相当数の『商品』をばら撒いていたらしいしな、売れ残りの量なんざ高が知れてるだろう」

 依頼を受けた段階での前情報として彼らの手によって相当数のハーブが取引されているらしいことは確認済みだった。組合の管理が厳しいこの街でよくぞそこまで、と寧ろ関心すらした程だ。


 「…それも妙な話だな」

 パイプを磨く手が止まる。


 「買うにしろ運び込むにしろ売るにしろ、それだけの品物を独力で取り扱えるような連中だったのか?」

 カウンターに肘を掛け身を乗り出しながら店主が訊ねてくる。壮年の髭面には怪訝な表情が浮かんでいた。


 「まぁ控え目に言っても素人に毛が生えた程度だったが、何が気になるんだ?」

 店主が漂わせる真剣な空気に気圧され思わず襟を正してしまう。だが疑念を持つ理由が分からない。過去に組合の利権を無視して独自に商売を行おうとした個人・組織は到底数えきれる物ではなく、今回も同様のケースだと捉えていたからだ。精々が外部勢力の示威行為程度にしか考えていなかった。


 「ちょっと待て、店を開けたままでは話せん」

 そう言ってカウンターを出た店主は店の唯一の出入り口であるドアを開ける。店の外に人通りが無い事を確認すると玄関灯の電源を落としドアの施錠を厳重にし終えてから私の隣の席に腰掛けた。



 「例の見世物小屋の一件、覚えてるか」

 店主は先程よりも声量を抑えた低いトーンの声色で話を切り出してきた。

 「参加してたの知ってんだろ、馬鹿にしてんのか」

 そこで出会った相手が現在自宅のベッドで寝ているのだから忘れる筈も無い。

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