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~2-4~
情動を表出する術を半ば失いかけていた所にあって此の体験は自分にもあの人にとっても思わぬ事態を招く事になった。簡潔に言うなれば、その後結構な期間に於いて所謂情緒不安定になってしまったのである。
その翌日、既にお手付きになったと言う免罪符を得た自分は早速同衾の催促を試みた。あくまで其れと無く、ふしだらな振る舞いも控えて。とは言え、念の為衣類は身に付けずに誘ったのだけれど。しかしあの人は自身が羽織っていたガウンで私を包むと無言で首を振った。
俯いていた為にその表情を窺うことは出来なかったが、恐らく笑顔でなかった事だけは確かだろう。酔った勢いで欲求に従い行動したご自分を恥じ、自責の念に駆られて居られるだろう事は予想していた。だからこそ今一度その理性を剥ぎ取らんと文字通り身一つでお情けを戴かんと懇願してみたのだけれど、どうやら余計な意地が邪魔をしている様子だった。
「一度抱いたなら、二度抱いても変わりませんでしょう」
そんな意味を込めた言葉を掛けて差し上げようと口を開いたが、言葉にならなかった。加えて言うなら、首を振るあの人を見た瞬間、周りの音が急激に遠くなった気がした。
気付けば聞こえてくるのは空気を裂くような甲高い金属音に似た耳鳴りだけで、其れが自分の発する悲鳴だったと気付くのにはもう数瞬を要した。気付いた時には既に遅く、自分は髪を振り乱し無い腕で自分の顔を覆いながら泣き叫んでいた。
どうして、昨日は愛してくれたのに。自分の身体が醜悪だからなのですか。それなら何故傍に置いたのですか、世話を買って出たのですか。自分はこんなに想って居るのに。貴方好みの身体の筈なのに。貴方の為の身体なのに。そう、こうなったのはきっと貴方の為なのに。
言葉に成らぬ感情が脳内で空転する度に思考は歪に、独り善がりに変貌し、しかしそうとは気付かずにまた空転する。其れを何度となく繰り返し泣き叫ぶ自分をあの人は力強く抱き締めた。耳元で何度も
「悪かった、すまない、俺が悪かった」
そんな謝罪を繰り返しながら。
「あなたの、ためなの」
言葉に成らなかった想いが不意に口を衝く、最早其れが本意なのかも曖昧な儘に。
「こうなったのは、あなたの、ためなの」
上腕を擦り付ける様にしてあの人の身体を掻き抱く、最早聢と声が発せて居るのかも不明な儘に。
「そう、おもわせて、このからだに、いみが、あるって」
あの人からの謝罪は既に止んでいた、代わりに、抱き締める力だけが少し強く、優しくなっていた。
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