第16話 言及と保留

「そうだ、思い出した! あの男を『木村さん』ってタカシのヤツが呼んでたんだ……って事はマジか、この留守電のタカシは、本当にあの板垣タカシなのか⁉」


「木村さんって人はどんな人だった?」


「滅茶苦茶怖い人だった。プロレスラーみたいな身体してて、スキンヘッドでサングラスかけてる……入れ墨もあった。顔に刃物で切られたような傷も」


「ソレ、ヤクザじゃねぇの?」


 わからない。

 だが明らかにただ者ではない雰囲気は漂わせていた。


 木村に呼ばれたタカシも、突然冷や水を浴びせられたように背筋が伸び、あからさまな上下関係を見せつけた。


「その後は? トイレで会って終わり?」


「いや、確か……今度一緒に飲もうって約束したんだ」


「その『今度』って昨日の事か?」


「多分……いや間違いない」


「じゃあ昨日俺が店を出た後、入れ違いでタカシが来たのか? なんで忘れてんだよ、そんな事!」


「だってカラオケの時も、昨日お前と飲んだ時も、滅茶苦茶に酔っぱらってたから……」


「そりゃあんなペースで呑んだら酔わないわけないだろ」


 カンタは俺を諫めるように捲し立てた。


 だが取りあえずタカシとの件は保留にしてくれるらしい。


 「まあいい、次だ次。早く次のメッセージを聞こう」と俺を急かした。


 だんだん楽しくなってきたようである。

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