第14話 閃きと覚醒

 連絡をよこしたのは、やはりタカシである。


『もしもし依子?』


 聞こえてくるタカシの声は、なぜか震えていた。

 凍えているような、とても心細そうな声だった。


『お前今、どこにいんの? 電話見たらマジで連絡くれ』


 録音された音声には、薄らとJPOPが流れている。

 聞き覚えのあるバラードであった。


 俺はこの曲を以前もどこで聞いた事があった。

 そう昔の話ではない。どこだっただろうか。聞いたのは、間違いなく最近だ。


「この曲なんだけどよ、薄ら聞こえてくるやつ……多分店の有線音楽だと思うけど」


「ああ、良いよね。俺も好きだよ。確かコレ、一昨日も歌ってる人いなかった? ほら、スゲー熱唱してたオヤジ。音漏れしまくってるのに超音痴で、ありゃマジで笑えた」


 カンタの言葉につられ、俺も思い出す。

 ついつい思い出し笑いをしてしまう。


「確かにあのオヤジは酷かったな。真似しろと言われても出来ねぇよ」


 俺は最初、ケラケラと笑っていたが、ふと『カラオケ』と言うワードが、俺の中で引っかかった。


 何かが掴めそうな感覚が、胸に咲いた。


 思い出せそうで思い出せない、あのモドカシイ感覚。


 心の中で「カラオケ、カラオケ」と何度も呟くと、掴みかかっている記憶の輪郭が徐々に明るく、浮き彫りとなってくる。


 あと少し、あと少しと地道に記憶を手繰り寄せていくと……、


「思い出した!」


「なにが?」


「だから思い出したんだよ!」


「だからなにが!」


「タカシだよ!」


 堪らず声が出た。仕方がない。それだけ労を強いられたのだ。


「俺、この日にタカシと会ってるんだ」

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