第5話  物忘れと溜息

 ……それにしても俺は、なぜ彼の部屋に居るのだろう。


 この部屋に泊まる時は、カンタと遅くまで飲んだ時と決まっている。

 店を出た後、カンタと喋りながら同じ帰路を歩むのだ。


 だが昨晩は、カンタと呑んだりしなかった。

 正確に言えば、途中までは一緒だった。


 だが日朝アニメの為に、鶏並みの早起きを強いられる彼は、席の途中で「用があるから帰る」と言い残し、先に帰ってしまったのである。


 ちなみに、俺はそこから先の記憶がない。


 故に、なぜこの部屋にいるのか見当がつかなかった。


 俺の顔を見たカンタは、また溜息をついた。


「その顔は『なんで俺の部屋にいるんだ』って顔だな」


「エスパーかお前は」


「バカにしてんのか、お前。寝てる俺を電話で叩き起こしやがって」


「いや全然覚えてない」


「覚えてろよ! 夜中だってのに、いきなり部屋に押しかけてきやがって。つーかタカシのヤツはどうしたんだ?」


 「タカシ?」と俺は首を傾げた。


 カンタは「おいおい」と呆れ面を浮かべている。


「お前ら昨日一緒に飲んだんだろ?」


「飲んだのか?」


「そう言ってたじゃねえか!」


 やはり俺は全く覚えていないのである。


 ……そもそもカンタが言う『タカシ』とは、最後に会ってから3年近く時間が経っている。 


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