第6話 タカシの変貌

 タカシとは大学での知り合いだ。


 始めて会った頃の彼は絵に描いたようなオタクであった。

 ヒビ割れた眼鏡をかけたキモイヤツだった。

 弦はセロハンテープで補強したまま、修理に出そうとすらしない。


 そのうえ、線が細くて薬物中毒者みたいなボサボサな頭をしていて! 


 テンションが上がると早口になったり、奇怪な行動をとってみたり。


 人目もはばからず大声で発狂し、悪目立ちした事もあった。


 ……俺、なんでアイツと友達だったんだろう。

 良い所なんもねぇじゃん。


 振り返る内に、俺はよくわからなくなっていた。


 確かな事と言えば、もしカンタが俺に紹介してこなければ、タカシと関わる事は絶対になかった事である。


 今でもたまにあの時の彼は夢に出て来る。


 別にタカシは死んだわけではないが、定期的にアイツの夢を見る。

 ここだけ聞くと勘違いする輩が現れ兼ねないので、一応否定しておくが、タカシを見て恋に落ちてるわけでもない。


 むしろアイツが人から好かれる要素など、何一つとしてないのである。


 夢に出てくる姿は相変わらずパッとしないオタクファッションだ。


 シャツはヨレヨレでモノトーンのダサいストライプが入っている。

 履いてるジーンズもかなりの年期物で、洗濯のし過ぎか色褪せていた。

 背負ったリュックサックも例外なく骨董品だ。

 彼のリュックがボロいとバカにされないのは、至る所に目玉の大きいアニメキャラの缶バッジが、それこそトンボの複眼みたいに付いているせいである。


 酷い時はそこへポスターが捻じ込まれている有様だった。


 だが誤解を恐れず言うならば、俺はそんな気持ち悪いオタクだった頃のタカシの方が好きだった。


「俺、アイツと会ったのか?」


「知らないよ、会ったんじゃないの」


 「でもなぁ」と俺は納得がいかなかった。


「アイツと話すなんてありえないよ」


 俺は、もうタカシの友達ではないのだ。

 彼の方から疎遠となり、俺の方から友達を辞めたのだ。

 自然消滅と言った方が間違いない。


 文字通り、彼は急に人が変わってしまった。


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