第3話 勘違いと愉悦

『やっと出たなコノヤロウ。今からソッチに行くからな、逃げんじゃねえぞ』


「……はい?」


 乱暴に言うだけ言うと、男は電話をブツリと切った。


 まるで意味が分からず、突然横っ面をぶん殴られたような気分であった。


 ……逃げんじゃねぇよって、此処がどこかわかってんのか?


 思い浮かんだ独白に、俺は少し楽し気な気分にさせられる。

 憂さが晴れたとでも言うのだろうか。


「もし来れたとしても、俺の部屋は留守なんだよなぁ」


 ……なので仮に電話の男が俺の部屋に来たとしても、無駄足に終わるのである。


 そうとも知らずに向かっているなんて!


 嗚呼、なんて痛快な勘違いなのだろう!


 脳裏では悪態を付く男が「どこにいるんだ!」と怒鳴り込んでくる未来まで想像していた。


 ……もしまた電話がかかって来たら、ざまぁみろと言ってみようか。


 これは滑稽、溜飲さが下がるようだ。


 同時に俺の中で愉快な復讐心が芽生えている。


 性格が悪いと言われたらそれまでだが、乱暴な物言いをする男の、困り果てている姿を想像するのはとてもとても楽しい時間であった。


 改めて周囲を見渡すと、正面にある大きな液晶テレビが目に付いた。

 暗転した画面に写る俺の顔は、人には見せられない邪な影を浮かべていた。

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