第10話:ある技法との出会い
モダンな
「フリースペースで自由に打てるみたいですね、ここでやりましょうか?」
龍一郎の提案を快諾した梨子は、彼の後を追って自動ドアの奥へと進む。暗色のエプロンを身に付けた女性店員に出迎えられた。壁の色は黒く、何処と無く落ち着いた雰囲気の店内は、男性客も多い《金花会》のようだった。
「いらっしゃいませ、《こんてい屋》へようこそ! ご利用パックは何に致しましょう?」
ラミネートされたパック表なるものを手渡され、二人は「カラオケのようですね」と笑いつつ、一時間パック(ドリンク付き)を選択した。賀留多は貸し出しの他に持ち込みも許可されており、一通りの種類は揃っているらしかった。
「テーブルの上で打つのって、何か慣れない感じだなぁ」
布地のマットが敷いてあるテーブルの袖には、飲み物を置けるポケットが付いている。しかし碁石やその他の小道具を入れる場所は無く、開店当初にありがちな手探り感が否めなかった。
「金花会では全部畳の上ですからね。……でも、この場所は大発見ですね左山さん。さっきポスターに《うんすん賀留多大会》を開催するって書かれていたし、今後が楽しみですね」
先程購入した《八八花》を開封し、慣れた手付きで切り混ぜる龍一郎は、「さて」と問うた。
「飲み物が来たら始めましょうか。何か……これが良いとか、そういうご希望ってあります?」
「うーん……そうですねぇ」
余りに簡単な技法ならば、「じゃあ習得しましたね、帰りましょう」と帰宅を提案されるかもしれない。逆に難し過ぎたら「もう疲れましたね、また今度」と帰宅を催促されるかもしれない……。
元来、今回のデートは賀留多に詳しくない友人の為に「梨子が技法を教わり、それを友人に授ける」というものだ。丁度の良い塩梅が求められた。
「絵実……友達は『難し過ぎず、簡単過ぎず』って技法が良いらしくて……そんなのあるかなぁ」
二人は運ばれて来たアイスティーに口を付けた。しばらく経ち、龍一郎は「そうだ」と顔を明るくした。
「あります、丁度良い技法が!」
互いの手札に八枚、場札にも八枚……見慣れた札撒きをする少年に、梨子は「《こいこい》?」と小首を傾げる。
「いいえ、これは《こいこい》じゃあ無いんです。打ち方は似ていますが、決まった点数を目指して出来役を作り、相手よりも先にゴールを目指す……名前は――」
やりながら説明しますね……龍一郎は微笑んだ。
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