第10話:ある技法との出会い

 モダンな賀留多屋菱屋莱狐堂から歩いて五分程、そこに新しいカフェが開店していた事を梨子は知らなかった。立て看板によると三日前に開店したらしく、「賀留多遊戯の再興を目指します!」と踊るように書かれている。


「フリースペースで自由に打てるみたいですね、ここでやりましょうか?」


 龍一郎の提案を快諾した梨子は、彼の後を追って自動ドアの奥へと進む。暗色のエプロンを身に付けた女性店員に出迎えられた。壁の色は黒く、何処と無く落ち着いた雰囲気の店内は、男性客も多い《金花会》のようだった。


「いらっしゃいませ、《こんてい屋》へようこそ! ご利用パックは何に致しましょう?」


 ラミネートされたパック表なるものを手渡され、二人は「カラオケのようですね」と笑いつつ、一時間パック(ドリンク付き)を選択した。賀留多は貸し出しの他に持ち込みも許可されており、一通りの種類は揃っているらしかった。


「テーブルの上で打つのって、何か慣れない感じだなぁ」


 布地のマットが敷いてあるテーブルの袖には、飲み物を置けるポケットが付いている。しかし碁石やその他の小道具を入れる場所は無く、開店当初にありがちなが否めなかった。


「金花会では全部畳の上ですからね。……でも、この場所は大発見ですね左山さん。さっきポスターに《うんすん賀留多大会》を開催するって書かれていたし、今後が楽しみですね」


 先程購入した《八八花》を開封し、慣れた手付きで切り混ぜる龍一郎は、「さて」と問うた。


「飲み物が来たら始めましょうか。何か……これが良いとか、そういうご希望ってあります?」


「うーん……そうですねぇ」




 余りに簡単な技法ならば、「じゃあ習得しましたね、帰りましょう」と帰宅を提案されるかもしれない。逆に難し過ぎたら「もう疲れましたね、また今度」と帰宅を催促されるかもしれない……。




 元来、今回のデートは賀留多に詳しくない友人の為に「梨子が技法を教わり、それを友人に授ける」というものだ。丁度の良いが求められた。


「絵実……友達は『難し過ぎず、簡単過ぎず』って技法が良いらしくて……そんなのあるかなぁ」


 二人は運ばれて来たアイスティーに口を付けた。しばらく経ち、龍一郎は「そうだ」と顔を明るくした。


「あります、丁度良い技法が!」


 互いの手札に八枚、場札にも八枚……見慣れた札撒きをする少年に、梨子は「《こいこい》?」と小首を傾げる。


「いいえ、これは《こいこい》じゃあ無いんです。打ち方は似ていますが、決まった点数を目指して出来役を作り、相手よりも先にを目指す……名前は――」


 六百間ろっぴゃくけん、と言います。


 やりながら説明しますね……龍一郎は微笑んだ。

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