第67話 遺跡
ジーマ諸島は千キロに渡って島が散在している。島のいくつかは、鉱石も多く採れ島民も数多く住んでいるということで、各国の植民地となっていた。
「駐留艦隊が多くて近づけませんね」
といっても、現地には近づけないので詳細な情報は解析できていない。いずれも、状況を考慮しての推測でしかなかった。
「しかたない。今日はここで停泊だ。艦を停止したら光学迷彩を起動してくれ」
「うん、わかった」
「了解しました」
俺は、考え事をしながら「夜間にスバルで行くしかないかな?」と独り言のようにこぼすと
「お供します!」
まあ、こいつを連れて行かないことには、諸島内部から探知解析が出来ないからな。
とはいえ、二人だけでは心許ない。
「
「うん。まかせて!」
その声に気分を害したのか、
「現状では、
「
ふてくされたように呟く
「
一触即発。
「おいおい、作戦前なんだか、喧嘩はやめろよ」
「大丈夫だよ。ハルナオ。ちょっとした打ち合わせだから」
まあ、
艦を停泊させると、皆で早めの夕食を摂る。食後、神妙な顔の
やっぱ心配だな。決闘とかしないよな?
俺が立ち上がって二人を追いかけようとしたところで、舞彩の手が俺の腕に触れる。
「放っておいて大丈夫だと思いますよ」
「でも、二人が喧嘩したら、今回の作戦が……」
艦内での平穏な日常での喧嘩ならいい。けど、緊急事態の最中に二人が険悪になったら、と心配してしまう。
「一ヶ月前のこと覚えてますか?」
「一ヶ月前?」
「あの始まりの島でのビーチバレーの試合をしましたよね?」
「ビーチバレー? ああ、そんなことあったな」
「あの二人、仲悪いように見えて、実はコンビネーションプレーが上手いと思いませんか?」
舞彩と亜琉弓も相性いいのだけど、試合はボロ負けだったもんな。
「もしかして、あいつら本当は仲いいのか?」
「良くはないですけど、姉妹ですからね。お互いに大切に想う気持ちはあるんですよ」
「まあ、日常での相性ってのもあるのかな。
「お互いに譲れない部分はあっても、根っこの部分ではお互いを尊重しています。それに、ご主人さまを守りたいという気持ちは共通なはずです。だからこそ、自然と協力し合えるのかもしれませんね」
そうだな。彼女たちのことはもっと信じてやらなければ。それが彼女たちを生み出した俺の責任でもある。
**
プレイオネを出発して三十分ほどでジーマ諸島の島の一つが見えてくる。今回、スバルの操縦は俺が行っていた。
「
「半径百キロ以内に機影なし。駐留艦隊はうじゃうじゃいますけど、こっちに気付いていないみたいですね」
夜間飛行でステルスモードなのだから、肉眼でもこの世界のレーダーでも見えるはずがない。
「
「わっかりました。お待ち下さい」
後部席の方から
「ハルナオさま。同系統の魔力は探知できません」
「そっか、次は遺跡の類を頼む。臨安にあったような」
「あー、めっちゃくちゃアバウトな探知条件ですよね。精度が落ちてしまいますけど、仕方ありませんか」
そしてさらに彼女からの報告を待つ。
「ハルナオさま。遺跡かどうかわかりませんが、土に埋もれた古い建築物を見つけました。おおよそですが、建てられたのは五千年以上前だと思われます」
「よし、それでいいから場所を教えてくれ」
「はい、……えっと……あ、これプレイオネじゃないから脳へのダイレクト転送ができないんですね。んしょ」
「
「これでいい?」
「はい。ありがとうございます
「そこまで行ってみるか」
座標と進路方向を確認しならが操縦桿を動かして、機体を傾ける。
しばらく進んでいくと
「霧……だけど、スバルの特殊な視界だと関係ないみたいね」
「ここらへんは霧がかっているのか」
「うん、なんか濃い霧に包まれているみたい。ただでさえ、夜間で真っ暗なのに霧が濃いから通常の機体なら進めないよ」
「生体レーダーは?」
「魔物はいないみたい。今のところ小動物しか反応してないかな」
「とりあえずは一安心か」
目的地付近に着くと、まずは旋回して周囲を警戒する。
「
「大丈夫みたい。
「ん? こっちも大丈夫みたいですね」
そう答えが返ってきたのを確認して、おれは着陸準備に入る。旋回しつつ速度を落とし、ティルトローターを徐々に下に向けていく。
ヘリのような垂直着陸ができる状態になったところで、高度を下げていった。
「ふぅー」
着陸した俺は、ほっと吐息を吐く。いつもながら着陸は緊張する。操作を間違えば機体バランスを失って地上に叩きつけられるからな。そういう意味じゃ、上方向に障害物がない離陸の方がいくぶん楽である。
「あたしが先に降りるよ」
まずは
次に俺が降りてみる。戦闘服を着てヘルメットを被っているので万全だ。外は薄い霧がかかっている。が、この辺りはホワイトアウトするほどの濃霧ではないようだ。
辺りを見回すと、山の斜面に埋もれた石造りの建物が所々に見える。土が半分以上被っているので全景はわからないが、それなりに大きなものだ。
「入り口を探すかな。
俺の指示に、タラップを踏みしめず「はぁーい!」と元気よく一気に飛び降りてくる
まあ、タラップは四段くらいなので大した高さではないが、
「
「わっかりました。お待ち下さい」
例によって魔法の呪文を唱え、お目当ての場所を探し当てる。
「えっとですね。方向としてはあっちですね」
「距離は?」
「三百メートルくらいです。歩いて行ける距離でしょう」
遠かったらスバルに戻ろうと思ったのだが、そんなに近いなら大丈夫だな。
三人で歩いて行くと、地上にぽっかりと空いた穴……というか、入り口が見える。直径が五メートルはある、地下へと下る洞窟のような穴。で、その奥にはわずかに人工物らしい石造りの建造物が見えた。
俺はヘルメットのバイザーを締め、暗視モードにする。同様に
ヘルメットを二人分持ってきてもよかったのだが、
「進むぞ」
「メル、ワックワクしてきました。いかにもな感じの建物ですね。メルの事前解析だと、この建物が作られたのは五千年以上前みたいですし」
「かなり前だよな?」
「ええ、大当たりですよ。臨安の墳墓以上の何かが見つかる予感がします」
石造りの建物の入り口に入ると、中はぼんやりと光っていた。これならば暗視モードはいらないだろう。
「なんで光ってるのかな?」
「そりゃ、人が通りやすいようにだろ」
「これって、五千年以上前の遺跡じゃないの?」
「あのプレイオネが時空を超えて出現した地点だ。プレイオネの技術を応用したものが使われているんだろ? 魔導機関に使われているような永久的なエネルギーを」
「じゃあ、これって」
「
「終わりましたけど、これ、オーバーテクノロジー過ぎますよ。メルの頭も所詮、ハルナオさまの知識が元なんですから、完全に理解できるわけないですって」
「でも、材質くらいはわかるだろ?」
「材質はそうですね。魔鉱石に近いんじゃないですか?」
「
「大丈夫ですよ。この魔石は制御されているものなんで、今までの集めたカードやペンみたいに暴走して魔力を垂れ流したりしませんから」
さらに奥へと進んでいくと広間に出る。広さは、野球場くらいだろうか。天井は半球状でドームのようになっていて、何か絵が描かれている。
内容は臨安にあったものの前半部分と同じ絵もあった。
ただ、あちらよりは邪神たちとの戦いが詳しく描かれている。
邪神たちに
「あれが勇者なのかなぁ?」
「どっかのハーレム小説みたいですね」
たしかに勇者以外に男がいないじゃないか。しかも皆うら若き乙女たちだ。女性不信の俺にはまったく考えられないシチュエーションである。うらやまけしからん!
その隣の絵では戦いは最高潮となり、邪神たちが地上へと魔物を何百体も堕としていた。
それを仲間たちの少女とともに討ち滅ぼす勇者。ところが、魔女を倒したのは意外にも彼の仲間の魔法使いの幼女であった。名を「シズル」という。すでに数百年を生きてきたと書かれているので、いわゆる「ロリババア」なのかもしれん。
そして最終決戦。
人間に憑依したという邪神の一人に伝説の剣を刺してすべては終了した。
勇者の名はエル……読めねえぞ。
「せっかくの勇者の名なのに、一部が削れていて読めませんね」
まあ、名前なんてどうでもいいか。それより、この神話には戦艦は出てこない。
「戦艦が出てくるのはもう少し後の話なのか?」
「ここと似たようなホールがあるのか、それともこの遺跡は戦艦がくる前に建てられたものか」
「後者の場合は、通路の魔力を封じた石……魔鉱石はもともとこの世界にあったということになりますね」
「じゃあ、この世界って本当は魔法が存在した世界ってことか?」
神話を見る限りでは魔物はいるし、勇者の仲間の少女たちも魔法を使って戦っている。太古の昔、魔法が使われていてそれは失われた。
現在の技術に魔法を使ったような痕跡が見られないのはたぶん……。
「その世界は滅びたんでしょうね」
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次回 黄金の瞳
遺跡の内部で出会った人物とは?!
※次回 6/25投稿予定(一週間空きますので、ご了承ください)
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