第65話 王女との別れ

 臨安で裏工作を始めてから一ヶ月が経つ。


 俺や舞彩や愛瑠メルは、交代で臨安とプレイオネを往復する日々が続いた。魔力注入に関しても俺の中でためらいもなくなっているので問題はない。


 彼女たちが魔力切れを起こす前に、自然と行為に及んでいた。


 舞彩や愛瑠メルとは宿屋で、恵留エルとは迎えに来た時のスバルの中で、亜琉弓とはプレイオネの部屋で魔力注入を行った。


 こう言うと作業めいた感じだが、実際にはお互いに自然に求め合ってそうなったのである。詳細は省くが、「平等に愛するというのは難しいのだな」と、先月まで童貞だったとは思えない悩みを抱えていた。十代だったら底なしの性欲で、毎日のようにやりまくっていただろうけど。


 とはいえ、傍から見れば、まさにハーレムプレイ状態である。ゲスな話になりそうだが、さすがにモンファには手は出していない。


 そこまで仲良くなっていないというのもあるし、現実の女の子というのもあるだろう。俺の女性不信は完全に治っていないのかもしれない。というか、一生治らないのでは?



 一ヶ月もプレイオネで暮らしていたために、モンファは他の姉妹たちともうまく関係を築けたようだ。


 でもまあ、亜琉弓が一番仲の良い友達ってところではあるけどな。


 というわけで、俺だけがモンファと少し距離を置いている感じなのである。


「もっとモンファちゃんと仲良くすればいいのは?」


 舞彩にもそう言われてしまう。


「そもそも俺の女性不信は完全に治ったわけじゃないんだよ。おまえらは特別なんだって」


 言い訳だというのはわかっている。それでもまだ、現実の女の子と仲良くなろうという気にはなれなかった。


 いや……よく考えたらモンファって亜琉弓の見た目と同じ十五歳じゃないか。リアルでロリコンってのはヤバいな。下手に距離を縮めなくて良かったのかもしれない。


「ご主人さまのことですから、モンファちゃんをこのプレイオネでの航海にお加えになるかと思いましたよ」


 舞彩が俺をからかうような口調でそんなことを言う。


「それこそ、節操のないハーレムプレイだよ。彼女にはあの国でやりたいことがあるのだし、連れて行くわけにはいかないって」

「明日には裏工作のすべてが完了するんですよね? 彼女を臨安にお戻しになるのですか?」

「ああ、そうだな」

「亜琉弓、また泣いてしまいますね」

「……しかたないだろ」


 できれば二人で仲良く暮らさせてやりたい。モンファだって、思うようにいかない国内事情に尽力するより、友達と気ままに暮らした方が幸せだろう。


 いや、人の幸せなんて他人が決めるものじゃなかったな。


「今晩はお別れパーティーみたいなことやるんだろ?」

「ええ、恵留エルが料理の腕を振るうって、張り切ってましたよ」

「そうか、俺も盛り上がるように、魔法のペンでパーティーゲームでも実体化させるか」


 ツイスターゲームとか、どうかな? いや、それだと俺だけが喜びを得るゲームとなってしまうな。もっと健全なゲームにしよう。


 そうしてモンファとの最後の日は過ぎ、翌朝にはスバルで穂高の街の近くまで彼女を送っていく。


 総督府に復帰したイシアカ総督には秘密裏にアポをとって、モンファを迎えに来てもらった。


 総督にとっても俺たちは恩人のようなものだから、邪険にされることもないだろう。


「貴殿は何者なのだ? どうやって強硬派の奴らを追い出したのだ?」


 俺と再会しての第一声がそれだった。まあ、わからないでもないが。


「それは重要機密ということで、ご勘弁ください。それよりモンファを連れてきましたので、彼女の保護をお願いします」

「ああ、わかっている。もう二度とあのような失態は犯さない」


 強硬派が失墜した今、総督を逮捕したり辞職に追い込む勢力もないだろう。それでも慎重に、この人は事を運ぶはずだ。


「イシアカさま。どうか、よろしくお願いいたします」


 モンファが深々と礼をする。それを見つめていた総督の顔が優しげに笑みを浮かべる。ある程度の事情と、モンファの考えは手紙で事前に伝えてある。


「ああ、できる限りキミの協力はしよう。だが、あくまで儂は副王であって、みかどのお心こそが優先されるものだと理解してくれ」


 その言葉に引っかかりを感じ、俺は思わず口を挟んで嫌味のようなことを言ってしまう。


「イシアカ総督、そのみかどは議会に逆らえない状態ですよね。まあ、議会というより軍部でしょうが。その帝の意志はどこにあるんですかね?」

「それはわかっておる。今の儂の力ではどうにもならんのだよ。だからこそ、悪い方向へといかないように、儂が必死でお支えしているのだ」


 彼の帝に対する忠誠心は本物のように感じる。まあ、おっさんだらけの軍部より、かわいい女の子の帝の方がいいだろう、という考えはラノベ脳でもあるか。


「そういえばイシアカ総督はタカノ中将と同期だったんですよね?」


 気象兵器の実験場であったあの島でのことを思い出す。タカノ中将は臨安の話題を話すときにイシアカ総督のことを高く評価していた。


「懐かしい名を聞いたのう。風の噂ではどこかでのたれ死んだと聞いていたが」

「あの人は生きてますよ。つい、二ヶ月くらい前に会ったんです。軍には復帰しているんじゃないですか?」

「そうか、まあいずれ会えるだろう。儂も奴もしぶといからのう。カッカッカ」


 イシアカ総督はそう高笑いをする。


「モンファ。俺たちはここまでだ。じゃあな」


 俺自身はそれほど名残惜しいこともなく、モンファの方も俺に対してはわりとカラッとした笑顔を向ける。こういう後腐れ無い別れはいいよな。


「ええ、あなた方もお元気で」

「モンファちゃんも元気でね」


 と恵留エルが爽やかな笑顔を向け、


「身体には気をつけてね」


 舞彩は優しく微笑みかける。


「あなたのご活躍をお祈りしています」


 愛瑠メルがめずらしく真面目な顔でそう言った。


「……みょうはお……べんきげえ」


 泣きすぎて鼻水ズルズルになって何言ってるんだかわかんない亜琉弓だった。


 そんな彼女とモンファは名残惜しそうに抱擁する。そういえば出会った頃とは、正反対だな。あの時はモンファが泣き崩れていて、亜琉弓がそれを宥めていたっけ。


 しばらくすると亜琉弓も落ち着いたのか、もう一度モンファと顔を合わせ別れの挨拶をする。


 そして俺たちはスバルで飛び立っていった。そんな俺たちに向けてずっと手を振る彼女。


 艦に戻ると、亜琉弓が、また涙をポロポロと流し出す。


 一ヶ月近くも一緒に暮らしていた子がいなくなったのだ。寂しさがこみ上げてきて、感情がループしてしまうのだろう。


「たぶん、モンファちゃんとはまた会えると思うよ」


 珍しく愛瑠メルが亜琉弓へとそう話しかける。


「へ?」

「だって、メルたちはまだ旅の途中であって、お宝を探している最中。ペンが全部見つかって兵装も手に入れられれば、最強となったこの船は、どこにだって行けるよ。その気になれば、また臨安にも戻ってこられる」


 愛瑠メルって時々、こうやって姉を思いやるんだよな。普段は末っ子のワガママで、傍若無人だってのに。


 これもナンバリングの力か。それとも彼女たちに宿った魂が、姉妹愛に目覚めさせたのか。


 どちらかわからないけど、確実に彼女たちは人間のように成長している。


 だからこそ、俺は彼女たちを人間にする方法を探し出さなければならないのだ。彼女たちが生まれたことに意味を持たせるためにも。


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次回 未確認飛行物体


ジーマ諸島へと向かう一行の元に飛来する未確認飛行物体の正体は?


次回 6/14投稿予定

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