第60話 愛瑠の後悔
モンファを救い出すXデーは明日。とはいえ、切迫した状況ではないので朝食はゆったりと摂ることにした。
「ハルナオさん。口汚れてますよ」
隣に座っている
別に俺が頼んだわけじゃないんだけどな。
そんな俺たちを向かいに座る
「どうした?
「アヤシイです」
「なにがだよ?」
「二人の仲です」
「亜琉弓は最初っから俺に懐いていたぞ」
「ベタベタし過ぎです」
やはり
「そ、それはここのところ舞彩がいないし」
彼女は臨安で諜報員兼工作員として活動してくれている。
「それに、亜琉弓姉さま肌つやつやです」
「そうかぁ、もともと亜琉弓の肌は若いしなぁ」
とぼけるように俺は
「亜琉弓姉さま」
「な、なにかな?
亜琉弓は亜琉弓で俺のように涼しい顔でとぼけることはできなかったようだ。彼女の顔が引きつっていく。
「昨日やったんですか? ハルナオさまのチ――」
いつの間にか
「痛いですよ。
「あんた、朝っぱらから、はしたない言葉を吐くつもりだったでしょ?」
「だってぇー」
「
「ぶー……」
「あー、
俺はいたたまれなくなって、つい口を挟んでしまう。
「あれ? じゃあ、自業自得じゃない。せっかく寵愛を受けられるチャンスだったのに」
「
「あんたはお子ちゃまだからねぇ、
「しかたないじゃない、経験ないんだから」
「誰だって最初はそうだよ。だからこそ、素直にならないと」
「
またもや、ぱこんと後頭部を叩かれる
「あー、もう! あんたと話してるとおかしくなってくる」
「
「自分の気持ち?」
「そう。ハルナオさんに本当は何を望んでいるのか? どうされたいのか?」
亜琉弓がすっかり「お姉ちゃん」してるなぁ。
「ハルナオさん、一時間くらいでいいんで
「まあ、
俺のその言葉に
「ハルナオ。あたしは大丈夫だよ。多少訓練時間がずれ込んでも構わないから」
「おまえらがいいなら、文句はないけどさ」
「じゃあ、ハルナオ。亜琉弓を
そう言って、俺の腕を引っ張って格納庫へ向かう。
まあ、いいか。舞彩がいないから、亜琉弓がお姉ちゃんとしての役割を果たそうとしているんだもんな。
ここは若い二人に任せておくとしよう……って、使い方間違ってるな。
**
夕食後、明日に備えてトレーニングジムで身体を鍛える。
一朝一夕でどうにかなるものではないが、俺だってあいつらのお荷物にはなりたくない。
一通りメニューをこなしてからシャワーを浴びて、備え付けのウォーターサーバーから水を飲んでいるところで
「あれ? どうしたんだ? おまえもトレーニングやるのか?」
「ハルナオさまにお話があるの」
何か思い詰めたような態度に、少し心配になる。何かあったのか?
「どうした? 悩みがあるなら相談に乗るぞ」
いつもの
俺は髪の毛をタオルで拭きながら、彼女の横に並ぶ。
「用があるんじゃないのか?」
いつもの
「メルは、亜琉弓姉さまなんかよりずっとハルナオさまのことを理解してると思ってた。けど……姉さまと話しててわかったの。姉さまの方がメルなんかよりずっとハルナオさまの事を理解していた。それが悔しくて……ううん、悔しいのは変だね。それが情けなくて……少し落ち込んでたの」
「他人を理解するのは難しいよ。俺だって、おまえらのこと全部わかってるわけじゃない」
「そうじゃないの……メルは亜琉弓姉さまより早く実体化したのに、ハルナオさまのことをちゃん見てなかった」
切々と訴えるように
彼女はさらに俺に感情をぶちまける。
「メルね。ヒーローに憧れるちっちゃい頃のハルナオさまを見て、すごく羨ましかったんだ!」
「あれは、俺の黒歴史だから、あんまりほじくり返さないで欲しいんだが」
昔の話は心の傷がチクチクと痛む。
「ハルナオさまは後悔しているかもしれないけど……でもメルが大好きなハルナオさまはあれが原点だとだと思うの。だからこそ、メルは、ハルナオさまにメルだけのヒーローになって欲しかったんだと思う」
「俺はおまえらみたいに魔法も使えないし力もないよ」
「けど、いつも的確に指示をくれる。メルたちが困ってたら、なんとかしようと助けてくれる。それに、いつだってメルたちのことを考えてくれるでしょ?」
「それは、おまえたちを生み出した責任があるからな」
「メルたちが人の道を踏み外さないように、ハルナオさまは導いてくれる」
「……」
俺、そんな宗教家みたいなことやったっけ?
「エクニル島で、メルが人をいっぱい殺そうとしたのを止めてくれたでしょ? もし、メルがほんとにおバカで、無責任に人をいっぱい殺してたら、メルはハルナオさまに嫌われていたかもしれない」
「まあ、そんなこともあったな」
今となっては笑い話になるくらいのことだ。
「メルはそんなハルナオさまに感謝してるし、大好きなの。だから、嫌われたくないの」
見上げている
「バーカ。そんなことで
「ほんとですか?」
「ああ、本当だ。責任があるっていっただろ?」
「……保護者ってことですか?」
俺の返答に、再びシュンとなって俯いてしまう
「保護者ってのは適切な言葉じゃないな……今はまだパートナーって言葉の方が合ってるかもしれん」
「そりゃ、メルたちは使い魔ですからね。ハルナオさまとは契約で結ばれたパートナーのようなものです。けど、そんなビジネスライクな関係は寂しいです」
使い魔とその主人。
だからこそ、確認の為に彼女に問う。
「
「え?」
驚いたような顔をする
「もし使い魔の呪縛から解き放たれて人間になることができのなら、
「望むに決まってるじゃないですか! メル、大人になれるんですよね? ハルナオさまの子を孕むこともできるんですよね?」
最後の台詞はまあ、
「ああ。だがな、同時に
「そんな……メルがハルナオさま以外を好きになるわけないじゃないですか!」
「
「ハルナオさまも……そうなんですか? 心変わりして、いずれ
「俺は……人間の女性への恋心ってのに慣れてないし、今まで
俺が愛情を費やしていたのは二次元の美少女たち。そこから愛情が返ってくることなんて想定していない。
「ごめんなさい……ハルナオさまもお悩みになっているのに」
でも、そうやって
彼女ときちんと向き合わなかった俺のせいでもある。
「まあ、あれだ。俺は誰かを愛するってことに不器用で、どうそれを表現したらいいのかもわからない若葉マークだ。未来のことはわからないけど、今の俺は
「
普段の
「ああ、愛してるよ」
いつもの
「メルは、あなたの心が冷めるまで、あなたの側にいることをお約束いたします。それはメルが人間になれたとしても同様です」
「どうしたんだよ? おまえらしくもない言い方だな」
「だって……メルが『愛してます』って言っても、ハルナオさまには全然伝わらないから……」
「伝わってはいるんだけど……まあ、ちょっとスルーし過ぎてたな」
反省の意味で彼女の頭に手を乗せて髪を撫でてやる。
「頭ナデナデしてくれるのは嬉しいんですけど、あんまり子供扱いされていると
「あ、わるい。そんなつもりじゃ」
思わず手を離してしまう。
「メルはあなたを愛しています。ハルナオさまもメルを愛しています。心では繋がっているのはわかりました……だからその、メルともきちんと繋がって下さい。メルは不安なんです。ハルナオさまとの繋がりはとてもとても細い糸のようで、いつそれがプツリと切れてしまわないかと……」
俺もそこまで鈍感ではない。彼女が何を言いたいのかはわかっている。彼女が求めるのは身体の繋がり。
俺は彼女を横にして仰向けに抱き上げる。いわゆる『お姫さま抱っこ」だ。
「きゃ」
小さく悲鳴を上げた
「おまえ、やっぱ軽いな」
「軽くても、小さくても、あなたへの愛の重さは変わりません」
「誰が上手いこと言えと。というか、それ逆効果だぞ」
重い愛はちょっとキツいぞ。
「もー、せっかくメル頑張って考えてきた言葉なのに」
「まー、重くてもいいよ。おまえのこと全部受け止めるから」
「ロリコンって後ろ指さされても?」
「ああ、もう覚悟ができてる」
「だから、ハルナオさま。大好きです!」
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次回 花嫁の救出
モンファを助けるために、ハルナオたちが動く!
※次回の投稿は5/24です。
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