第三章 現地の女の子とだって仲良くなる!? 出逢いから始まる異世界交流生活

第53話 上陸

「魔導機関始動、フライホイール接続。エネルギー充填百二十パーセント。圧力安定」


 現在、機関管制を担当している愛瑠メルの視線がこちらに向く。


「け、警戒領域に不審な艦船はありません。進路クリア」


 まだ不慣れな亜琉弓が自信なさげにこちらを振り返る。そういう場合は自信を持ってくれないとこっちが困るんだけどなぁ。


「魔導防壁異常なし、光学迷彩を停止します。隠密機能ステルスはいかがいたしますか?」


 防御管制担当の舞彩からの問いかけ。


 隠密機能ステルスを作動させたままだと速度が出ない。ただでさえ、出力が五割くらいだからな。警戒領域に艦船が近づいたら隠密機能ステルスを作動させればいい。


隠密機能ステルスも切ってくれ」

「了解しました」

「よし、臨安へ向けて出航する。錨を上げろ」


 俺は操舵担当の恵留エルへと指示を出す。


「了解。巻き上げ開始……五、四、三、二、一、巻き取り完了」


 それを受けて俺は正式に発信命令を出す。


「プレイオネ発進」

「プレイオネ発進します」


 いつものことだが、発進のシークエンスは緊張する。なりきり艦長をノリノリでやっているわけではない。圧倒的な防御力があるとはいえ、わりと苦戦してきたからな。


 そもそも魔力なんていう俺には理解不能なエネルギーを使用しているわけだからな。いつ動かなくなっても不思議ではないのだ。


恵留エル、現時点での最大船速まで上げてくれ」

「了解」


 微速からだんだん速度を上げるプレイオネ。船の揺れが安定してきたところで、俺は皆に告げる。


「今朝の会議で決定したことを確認する。全員そのまま聞いてくれ」


 後ろを振り向こうとした恵留エルが、顔を正面に戻す。他の子たちも、自分たちの作業へと視線を戻した。


「今回の臨安への上陸は、入手したばかりの多目的輸送機スバルを使う」


 あれにも隠密機能ステルスが搭載されている。それに今回の△印は内陸部だ。港から百キロ以上離れているので、足としては航空機のほうが手っ取り早いのだ。


愛瑠メルはお留守番なんですよね? まあ、いいんですけど」

「今回は恵留エルと亜琉弓を連れていくけど、またおまえも連れてってやるよ」

「ほんとですよ」

「ああ、今回は我慢してくれ」

「わかりました。その代わり……」


 恵留エルが後方の愛瑠メルをジロリと睨む。それ以上はもごもごと口ごもった。


「なんでもないです」

「そういや恵留エルもスバルのシミュレーションをやってみたんだよな?」

「うん。あたし、ああいう操縦系は得意かも」

「それは心強いな」

「任せてハルナオ!」


 上機嫌の恵留エル。昨日愛してやったのもあるから、彼女の調子は絶好調だろう。


「今回は亜琉弓も連れていくから、二人の連携にも期待してるぞ」

「は、はい。わたしも頑張ります」


 自信なさげに亜琉弓が答える。こいつも場数を踏ませてやれば度胸もつくだろう。


「舞彩も留守番させてすまないが、緊急時の対応を頼む。もしスバルが使えなくなった時は、高速艇で迎えに来てもらうかもしれない」

「承知しました」

「ハルナオ。この艦の停止位置は臨安から五十キロ手前でいいんだよね?」


 恵留エルから確認のためにそう問われる。


「ああ、今のところはな。けど、周辺に艦隊がいたらその時は臨機応変に対応すること」

「うん、わかってる」


 その日の夕方くらいには目的の場所に到着し、プレイオネを停泊することができた。ここで光学迷彩を含めた隠密機能ステルスを使う。


 そして日が落ちるのを待って、スバルへと乗り込むことにした。闇に乗じて上陸という定石を使うだけである。


「ご主人さま。お気を付けて」

「ハルナオさまぁ。ちゃっちゃと回収して帰ってきて下さいよ」


 と、甲板で舞彩と愛瑠メルに見送られる。


「あとは頼んだぞ」


 操縦席には俺と恵留エルが座り。亜琉弓は後部の格納庫に備え付けられた座席に行く。


「亜琉弓。シートベルトは締めたか?」

「は、はい。いま着けてます」

恵留エル。準備はいいか?」

「うん、平気」


 少し手間がかかったようだが、亜琉弓がシートベルトをきちんと着けるのを確認して離陸する。


 夜間飛行とはいえ超技術で作られた航空機なので、かゆいところに手が届く仕様だ。


 前面に映るのは昼間と変わらない明るさの視界。単純に赤外線暗視装置というわけでもなく、魔法的な何かで明るさを確保しているのだろう。


 そのせいもあって、この航空機は外部にいっさい光を発しない。光学迷彩は停止した時にしか効かないが、レーダー波は反射するので夜間であれば闇に紛れることが可能なのであった。


 なんの問題もなく、三十分ほどで目的地に到着する。


 愛瑠メルの事前の解析によれば、ここは古代遺跡がある場所らしい。余裕があれば遺跡見物でもしていくかな。


恵留エル。生体レーダーはどうなってる?」


 魔物が涌き出ていては危険なので、まだ目的地付近の上でホバリング中だった。


「んーと……ちっちゃいのばっかりだね。大型の生物はいない。というか、見えるのは人間よりも小さな生物だね。魔物というより野生動物かな?」

「じゃあ、ここらへんに着陸しよう」


 俺は操縦桿を操り、付近の林の中にある池のほとりへとふわりと機体を着地させた。


 補助動力は始動させたまま光学迷彩モードを起動する。これで他の人間からはこの航空機は発見されないはずだ。


「行くぞ」

「うん」


 俺に続く恵留エル。だが、亜琉弓が降りてこない。


「どうした? 亜琉弓」

「えっと、シートベルトが絡まっちゃって」


 たぶん、焦ってシートを外そうとしたのだろう。そんなに簡単にドジッ娘よばわりしなから安心しろ。


「まあ、そんなに急がないから焦るなって」

「あはははは……すいません」


 しばらくしてから亜琉弓が降りてくる。恵留エルも苛立つことなく「大丈夫?」と妹を気遣うような態度だ。これが愛瑠メルだったら喧嘩になっているだろう。この二人の関係は結構良好だ。


 機体を降りると、周りを警戒しながら林を抜けて△印の場所へと近づく。


「なんか変な建物があるね」


 恵留エルが見上げるようにそう呟く。


 そこは切り立った崖に沿って和風……いや中華風の建物があった。少し違和感があったので赤外線暗視装置をつけてそこを見ると全容が明らかになる。


 崖の岩をそのまま彫り進めて建物のように作っているのか?


 瓦のように見えた部分もすべて彫刻であった。そして、その入り口には高さ五メートルはある大扉がある。


「まさか、兵装カードはこの中に封印されてるとか?」

「ハルナオさん。この拡大地図を見るとこの中っぽいですね」


 亜琉弓が目の前の大扉を手元の地図と見比べている。


「これ、普通に開けるのは難しそうだな」


 俺は扉を手で触りながら、その材質を確かめる。表面がわずかに光っていた。これは魔力か? この世界にも魔法がまるっきりないわけではないのか? それとも古代の超技術なのか……。


「あたしの魔法で溶かす?」


 そう恵留エルが提言してきたので、俺はとりあえずそれを了承する。だが、無理だろうということはわかっていた。


 しばらくして恵留エルがギブアップを求めてくる。


「ハルナオぉ、これ全然溶けないよ」


 そりゃそうだろう。恵留エルの普段使っているような火魔法じゃこの扉はどうにもできない。


 たぶん、魔法的な何かで守られているのだろう。古代人は魔法が使えてそれをそのまま現代まで利用しているということか。


 かといって、無理矢理開けるために魔力消費の激しい大魔法を恵留エルに使わせるわけにもいかない。


「ハルナオさーん! こっちに何か文字のようなものが書いてありますよ」


 亜琉弓が扉の右側にある小さな窪みの近くにあった文字を見つけたようだ。


「なんて書いてある?」

「主の正当なるリウの者よ。その指に宿した宝石を我に触れよ」


 おお! なんだか宝探しっぽいイベントになってきたな。


「これは何か魔法的なもので封印されている可能性が高いな」


 『リウ』は何かはわからないが、指に宿した宝石ってのは鍵となる指輪だろう。それらを見つけてそこに填め込めば扉が開くというパターンかな?


 俺はヘルメットの通信機でプレイオネへと問いかける。


愛瑠メル。聞こえるか」


――「はい、なんでしょう? ハルナオさま」


「△印の近くに遺跡があるのを確認できるか?」


――「ええ。ありますね。それがどうかしましたか?」


「この付近に兵装カードらしき反応がない。もしかしたら、遺跡の中かと思ってな」


――「はい、今探知してます。……わずかながら魔力を感じますね」


「扉自体に魔力が施されている。それが反応しているのかもしれない。内部を解析できるか?」


――「うーん……時間がかかりますけど」


「どれくらいだ?」


――「そうですね……二日ほどください。それで、遺跡の中がどうなっているかが把握できます」


 さすがに距離も離れているし、遺跡自体の魔力的な仕組みですぐには解析できないのだろう。


「わかった。頼む。それから、俺らは街で情報を集めることにする。一寝入りしたら、翌朝にここを出発する。舞彩にもそのことを伝えておいてくれ」


――「らじゃです!」


 通信を切ると、俺は恵留エルや亜琉弓たちの方を向く。


「街で情報を集めよう。念のため愛瑠メルの情報で舞彩が作った民族衣装を持ってきてよかったな」

「ええ、わたしあの服着るの楽しみだったのですごく嬉しいです」

「え? やっぱ、あれ着るの?」


 亜琉弓がにこやかに笑うが、恵留エルは乗り気じゃない。


「現地人として情報を収集するんだからこの格好じゃダメだろ?」

「そうだけど……なんか恥ずかしい」


 恵留エルは俯き顔を赤くする。


「行きたくないなら留守番でもいいぞ」


 俺はわざとそう突き放した。


「ううん。行く。ちゃんと着るから、連れてってよ。ハルナオ」


***********************************


次回 総督


臨安の街、雄高へと向かう一行。そこで見かけた二人の権力者とは?


※5/1の投稿となりますので、ご了承ください。

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