第51話 水着回!

 目の前には水着姿の美少女たちが勢揃い。なんだ、このギャルゲ展開は。いや、俺が望んだんだけどな。


 女性不信に陥っていた転移前の俺からは、まったく考えられないような状態パラダイスだ。


「で、なんでメルはこの水着なんですか?」


 ぷくーっと頬を膨らませた愛瑠メルがスク水を着て現れる。


 シンプルな紺色の水着は、八〇年代から主流になったボトム形状のものだ。股間部が分割されてなく背面の形状はY字型である。


 もちろん、なだらかな身体のラインを綺麗に見せるために、胸部に白い布で名前を貼るようなギャグ要素を足していない。あくまでも水着と愛瑠メルの魅力を引き出すのが目的だ。


「亜琉弓と意見が一致してな。それがおまえの魅力を最大限に引き出す水着なんだよ」

「メル、もっとセクシーなの着たかったのに」

「えー、愛瑠メルちゃんかわいいよぉ」


 亜琉弓が愛瑠メルを後ろから抱きつき、そんな風にからかう……ではなく、こいつの場合は真面目にそう思ってるのかもな。


 その亜琉弓は薄緑色のビキニタイプだが胸部はフリルがてんこ盛りになったもので、下部はこれまたフリルとリボンの付いたパレオで巻いている。


 全体的に身体のラインを強調せずにかわいらしさのみを追求したものだ。まあ、JC設定だし、これくらいのお色気にしておいた方が健全だろう。


「ハルナオ! 泳ごうよ」


 恵留エルが近づいてきて俺の手を引いて海へと向かおうとする。。


「待て待て待て、準備体操させろって」

「え?」


 恵留エルの水着は黒のワンピースがベースの競泳用水着だが、デザイン的な四色の曲線が縦方向に描かれている。ぴったりと身体にフィットするその水着は、恵留エルの身体の美しさをも引きだしていた。


 股間のV字カットがすらりとした足をさらに長く見せている。背面はX字となって大きく開いているので肌の露出はわりと高い。


恵留エル、はしゃぎたい気持ちはわかるけど、ご主人さまのことをまず考えなさい」

「う……ごめん、舞彩姉」


 舞彩は定番の三角ビキニで、その豊満な胸部を強調する。もう、はち切れんばかりのその場所はいつ背面のヒモがほどけないか心配だ。


 その凶悪的なおっぱいは彼女が動くたびに、ゆらんゆらんと揺れていく。


 いかん……3Dの物理演算以上のリアルな動きに俺の下半身はどうにかなってしまいそうだった。


 さらに緑色の魔法ペンで描いたバナナボートやら浮き輪やらビーチボールを実体化し(他の属性だと沈んでしまう)浜辺でおおいに遊んだ。


 たぶん、大人になってから海でこんなに遊んだのは初めてだろう。とはいえ、子供の頃もそんなに経験はなかったな。せいぜい、親戚一同で祖母の家に行った時に海で遊んで以来かな。


 火属性だというのに恵留エルは泳ぎがうまく、舞彩の作ったもりで魚を獲っていた。愛瑠メルは浮き輪でちょこちょこと泳ぎ回り、舞彩は浜辺のビーチチェアに寝転がって優雅に過ごす。


 亜琉弓はバナナボートを海に浮かべてそれに跨がるが、潮に流されて危うく沖に流されそうになり「たすけてぇー」と情けない声で叫んでいたところを、恵留エルに助けられるという有様だ。


 その後、チームワークの訓練をかねて、砂浜でビーチバレーを行う。


 舞彩と亜琉弓、恵留エル愛瑠メルのチーム分けにする。


 ふっくらさんチームとスレンダーチームだ。


 別に体型で分けたつもりはなかったのだが、こうなってしまった。というのも、舞彩と亜琉弓では実戦を行っていないし、恵留エル愛瑠メルは普段ケンカばかりしているのでちょうどいい。


 まあ、なんだかんだいってお互い使い魔であることを分かっているのだろう。口げんかの絶えない恵留エル愛瑠メルのチームだが、その連携はうまくいっていた。


 舞彩と亜琉弓のチームも防御力なら負けないが、強力なアタッカーがいないということで勝負の軍配は恵留エル愛瑠メルのチームに上がる。


「ハルナオさまぁ! 勝ったのでご褒美の――」


 愛瑠メルが俺に駆け寄ろうとしたところを、恵留エルは足を引っ掛けて転ばす。


「……」

「もう! 恵留エル姉さま、やりましたね!!」


 どこかのネコとネズミのように仲良くケンカを始める有様。まあ、これくらいなら放っておけばいいかな。


 そして夜は砂浜でバーベキュー。というか、島内の動物が少なくなっていたので、海の幸を網焼きして食べた。いわゆる浜焼きか。


 そんな感じで、リゾート気分の一日は過ぎていった。


 そういえば、恵留エルが前の魔力注入から六日くらい経ってるんだよな。そろそろ魔力を……というか、この俺の「魔力を入れとかなきゃ」っていう機械的な思考はいかん。


 もちろん、それは彼女たちが消失しないために必要なんだけど、義務的じゃなく俺は恵留エルを本気で愛そうと誓ったのだ。


 もっと俺は素直にならなくちゃいけないのかもしれない。けして裏切ることのない相手だと見くびってはいけない。


 彼女たちを人間に戻したとき、俺との契約は切れるのだ。その時に、俺の側にいるかどうかは彼女たちの自由意志である。


 愛想を尽かされないためにも、全力で彼女たちを……。


 だけど……。


 人の心は変わりやすい。彼女たちを人間にするということは、そういう事も受け入れなくてはならない。つまり、離れていく子たちも出てくるだろう。下手をすれば誰も残らない未来だって可能性がないとはいえない。


 それでも俺は彼女たちを人間にしたいのか?


 ……。


 女性に裏切られることはトラウマだ。だけど、心の変化まで裏切りだと決めつけるのは愚行だ。


 そうだよな。心変わりはされる方が悪い。だからこそ、俺は彼女たちを大切に扱わなければならない。


 この大切ってのは、大事に大事に機嫌をとりながらってことじゃない。本音でぶつかって、相手を認めて受け入れて、自分を押し付けるのではなく、自分を知ってもらうことだ。


 とまあ、考えるのは簡単だけど実行に移すのは難しい。


 就寝前の静かな時間に、俺は恵留エルの部屋を尋ねた。


 トントンとノックすると、静かに扉を開ける。


「ハルナオ?」


 恵留エルの部屋に来るのは二度目だった。


 この戦艦に乗ってから七日目だが、部屋はわりと整理されている。扉近くのハンガーにはブレザーの制服がかけてあり、ドレッサーの上にはぬいぐるみが置いてあった。


 あれはたしか、とあるゲームの連装砲を擬人化したものだっけ?


「わりと綺麗にしてるんだな」


 なぜか緊張する。まるで初めて女の子の部屋に入ったみたいではないか。


「なに立ってるの? 座っていいよ。ハルナオ」


 ベッドの座っていた恵留エルは、隣をぽんと叩き優しい笑みを浮かべる。一週間前なら想像もできない態度だ。


「ああ」

「緊張してるの? 今さらじゃない? 別に初めてってわけでもないのに」

「いや、こういう女の子の部屋っていうか、特別な空間での二人っきりってのはそうそう慣れるものじゃないんだよ」

「ハルナオらしいね」

「そういえば、そのぬいぐるみはどうしたんだ? 前来た時はなかったけど」

「これ……ハルナオの記憶の中で見た時に『かわいい』って思ってたんだよね。この船には材料がいっぱいあるからさ、それで、舞彩姉に頼んで作ってもらったんだ」


 恵留エルがそのぬいぐるみを手に取ると、膝の上に乗せて抱きかかえるようにする。


「俺はそれに関してはあまり思い入れはなかったからな。恵留エル自身のオリジナルの気持ちだな」

「うん。あたし、こういうの好きみたい。まあ、愛瑠メルの部屋はもっとぬいぐるみがいっぱいあるんだけどね」


 それは初耳だ。


「そうなのか?」

「あれ? ハルナオはまだ行ったことないの?」


 恵留エルが意外そうに目を丸くする。そういやお誘いはあったけど、愛瑠メルの部屋に入ったことはなかったな。


「うん。機会がなくて」

「そっかぁ。そういえば、この間、強制的に魔力を注入したんだもんね。あはは……さすがにあたしも愛瑠メルには同情するわ」


 あれがあったからこそ、理由を失ってしまったからな。それに……


「あいつとはな……ぐいぐい来られるから、ついつい腰が退けるんだ」

「ハルナオなら、そうなるよね。愛瑠メルもそこのところはわかってると思うんだけど……あの子の性格なんだろうね」

「あと、あいつの容姿を幼くし過ぎた。手を出すには、ちょっと……倫理観が邪魔をする」

「うふふ……あたしには手を出したのに」


 恵理が目を細めて笑う。かぁーっと、顔が火照ってくるのを感じた。だから、つい言い訳をしてしまう。


「魔力の注入だろ」

「そんな作業みたいに言わないで、あたしは……」


 恵留エルが寂しそうな顔をして顔を伏せる。そうだった。俺はこの子たちを人間として扱ってやることを誓ったのだ。


「ごめん。俺は……その恵留エルが好きだから……その」


 俺の方が恥ずかしくなって口ごもってしまう。やっぱりこういう気持ちを口に出すのは苦手だ。


「イチャイチャしたい?」


 恵留エルがいたずらに笑みを浮かべる。愛瑠メルみたいな小悪魔的まではいかないが、それはとても魅力的な表情だった。


「したい」

「あたしもしたい」


 恵留エルが俺の肩へと身体を預けてくる。


「俺はおまえを……なんつうか恥ずかしいなこれ……とにかく義務感でおまえを抱こうなんて思わないから」

「知ってる。あたしもあなたの魔力注入をただの燃料補給なんて思ってないから」


 恵留エルはそう呟くと顔をこちらへと向けて目蓋を閉じる。


「ねぇ、キスして」

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