第50話 遊覧飛行

 何かやることがあると言った愛瑠メルと後部甲板で別れると、俺は島へと上陸する。


 なんだか感慨深い。


 ここに転移したのは、もう一週間以上前の事か。


 歩きながらそんなことを考える。そして、ここに来たのだから墓参りでもしておくかと、あの謎のミイラを埋葬したところを訪ねる。


 すると、そこには墓標に向かって祈りを捧げる亜琉弓アルキュウの姿が見えた。


「亜琉弓来てたんだ」


 俺の声にびくりと驚く彼女。振り返って、俺の顔を見て少しほっとしたように吐息と吐く。


「ええ、舞彩お姉ちゃんから場所を聞いて、一度ご挨拶しておいた方がいいと思いまして」


 亜琉弓らしい律儀な性格だな。


「そうか。あの魔法ペンの生みの親だからな」

「そうですね。おじいちゃんみたいな感じなんですかねぇ」

「となると、俺はお父さんか?」

「うーん……ハルナオさんは、お父さんって感じじゃないですよ。わたしにとっては仕えるべきあるじであり、大切な御方です」


 畏まるように頭を下げる亜琉弓。舞彩も似たような事をしてくるし、そうやってメイドのように仕えてくれるのは悪くはない。が、俺としてはもう少し仲良くなりたい。いや、エロいことは抜きでだ。


 恵留エルのように男が苦手ってわけじゃなさそうなので、求めれば応じてくれるだろう。けど、こいつも中学生で設定しちゃったからなぁ……。


 愛瑠メルより二つ上とはいえ、十五歳。うん、ヤバイね。ヤバすぎるよ。


 それをわかっていながら描いた俺は、確信……いや故意犯だろう。というか、絵となると我を失って空想してしまう癖をなんとかしないと。


 それでも亜琉弓は俺の理想の一つだ。この年頃独特の女の子らしさを描きたかった。


 思春期特有のぽっちゃりした(男の感覚のぽっちゃりなのでデブとはまた違う)体型ってのは、それはそれで美しさがあるからな。


「ハルナオさんもお墓参りですか?」

「ああ、せっかくこの島に帰ってきたんだから挨拶しておかないとと思って」


 俺は墓の前で手を合わせる。四つのペンを回収しましたよってことと、兵装のことも報告した。それほど信心深いというわけではないので、ほぼ自己満足にしかならないが。


「さあ、いくか」


 俺が戦艦へと戻ろうとすると、亜琉弓が「わたしも戻ります」と付いてくる。


「あ、あのハルナオさん」


 亜琉弓が何か言いたげに、それでいて控えめに問いかけてくる。


「ん? なんだ亜琉弓」

「これ、ありがとうございました」


 と、亜琉弓が首にかけたペンダントをこちらへと見せる。それは、舞彩に言って作ってもらった亜琉弓用のもの。


 ペンダントは戦艦の修理用の資材を使った頑丈な三センチ大のキューブがつけられている。その中にはドリュアスからもらった種が入れられているはずだ。


 たぶん、ずっと身につけていたいと思う亜琉弓の為に、戦闘があっても壊れないようなものを舞彩に依頼したのだ。


「作ったのは舞彩だからな」

「舞彩お姉ちゃんにもお礼は言いましたよ。けど、これを頼んだのはハルナオさんだって聞きました」

「おまえ、ドジッ娘だからなぁ。なくしたら大変だろ?」

「まあ、……そうなんですけどね。けど、うれしいです。やっぱり、ハルナオさんだなぁって思いました」


 亜琉弓が花を開いたように明るく笑う。


「なんだよそれ」

「わたしの知っているハルナオさんは、そのままでしたって意味ですよ」

「よくわからんっての」

「まあ、いいです。プレゼントで喜ぶチョロインとでも思ってください」

「自分でチョロインとか言うなって」


 俺は苦笑する。その言葉はあんまり良い意味はないんだぞ。


「手、握っていいですか?」


 亜琉弓の方からそんなことを言ってきた。俺は、どきりと鼓動が高鳴ったのを気取られないように平静を装う。


「ああ、構わない」

「やったぁ」


 亜琉弓の柔らかい右手が、俺の左手を包み込む。彼女の方がわずかならが体温は温かい。好意を積極的に向けてくるのは愛瑠メルに似ているが、お仕着せがましいとは違う。


「おまえって、物怖じしない性格ってわけじゃないよなぁ」

「ん?」


 亜琉弓は不思議そうに首を傾げる。


「いや、俺に対して無条件に懐いている感じだからさ」

「無条件じゃないですよ。さっきも言いましたけど、わたしは知っていますから。ハルナオさんのことを」


 過去の記憶を共有するというアレか。まあ、そうなんだろうけど、少しだけ不安になる。


 たぶんそれは、俺が亜琉弓のことをあまり知らないからだろう。ゆえに、彼女の心を信じてやれなくなる。舞彩の時に乗り越えたはずのトラウマがまた甦ってきているのか?


 めんどくせーな、俺。


「そうだな。俺がまずするべきは、亜琉弓。おまえを知ることだ。午後になったら飛行訓練に付き合ってくれないか?」

「飛行訓練? ああ、あのスバルって飛行機に乗るんですね。はい、喜んで」


 亜琉弓が嬉しそうな顔をする。そんな彼女にまたもやドキッとした。



**



 愛瑠メルがブーブー言ってたが、助手席には亜琉弓を乗せる。おまえは午前中乗ったからいいだろうが。


 亜琉弓と二人でシミュレーションを何回か行い、実際に飛んでみることに。


 ふわりと浮かび上がると風を掴む感覚で操縦桿を動かしていく。


 やはりシミュレーションと実際の空は少し違っていた。


 高度を上げると戦艦の周りをぐるりと回る。全長三百メートル以上の巨大な船。それは上空から見ると、その桁外れな大きさを感じた。


「こうしてみるとやっぱデカいな」

「こんなおっきな船に乗ってたんですねぇ」


 亜琉弓も感心している。


「島の方も一周してみるか」

「はい。お願いします」


 あらためて島を上空から見ると、こちらはちっぽけな島だ。戦艦より大きいのに、なぜかそう感じてしまうのかは不思議だった。まあ、他の島を見てきたせいもあるだろう。


 反時計回りで西から回っていくか。


 まずは川が見えた。途中で二股に分かれていて、こっちの方はあまり来たことがなかったな。


 その後はずっと森があり、南側の海岸沿いに飛ぶと森が突如として切れ、枯れ木の地帯が広がる。その先は小鬼の巣のあった廃墟だ。


「あそこに愛瑠メルちゃんがいたんですよね」

「ああ、小鬼ゴブリンの腹の中だったけどな」

「あ、それ時々恵留エルお姉ちゃんが愛瑠メルちゃんをからかう時に使ってます」


 あー、それはある意味同情する。


 そして東の海岸沿いを北上し、左へ旋回すると入り江が見える。ここにはまだ、持ち主を失った駆逐艦が停泊していた。


 タカノ大将にも世話になったし、返してやりたいけど、この島を教えるわけにはいかないからなぁ。


「あ、砂浜」


 亜琉弓のはずんだ声がする。


「そういやそんなリゾートっぽい場所があったな」

「あそこでみんなで泳ぎません? せっかく落ち着いた時間を過ごせているんですから」


 彼女の提案は、これまでの戦いの緊張感をほぐすいい気分転換になるかもしれない。


「そうだな。たまにはそういう息抜きもいいか」

「ハルナオさん、水着のデザインとかできますよね。どうせ一日限りですし、あのペンで描いて実体化しません?」

「いいのか?」

「はい、わたし、ハルナオさんの絵、けっこう好きなんですよ。あと、オリジナルの服のデザインとかも、さすがセンスあるなぁって思いますし」


 そういや、オリジナルキャラの服装とかは、けっこう自分で考えて描いてたな。とはいえ、そんなところを褒められるとは思わなかったので気後れして自虐的になる。


「おいおい、おだてても何も出ないぞ」

「いやだなぁ。おだててませんよ」

「水着を実体化したはいいけど、着るの恥ずかしいからイヤだとかいうオチはダメだからな」

「ええ、大丈夫ですよ。あ、恵留エルおねえちゃんはもしかしたら恥ずかしいって言うかもしれませんね」

「あー、たしかになぁ……あいつのは大人しめにするか。スポーティーなやつなら文句は言わないだろう」

「そうですね。あと舞彩お姉ちゃんはやっぱビキニですよね」


 わかってるじゃないか、亜琉弓は。


「そうだな。あと愛瑠メルは」


 そこで亜琉弓の言葉が重なる。


「スクール水着」

「スクール水着」


 同意見だった。


「おまえはなんかリクエストあるのか?」

「そうですね。わたしはパレオ付に憧れますね」

「上はビキニでもいいのか?」

「はい。構いませんよ」


 ちょっとは恥ずかしがると思ったのにこれは意外だ。あとでかわいいのをデザインしてやろう。


 亜琉弓とはいろんな面で意見が合いそうだな。まあ、そういうところからこいつを知るきっかけを作ればいい。


 魔力の注入は、いざとなれば他の使い魔をポンプ役として強制注入もできるわけだし、あんまりエロいことを意識しない方がいいだろう。


 彼女とはお互いがお互いにリラックスできるように、兄妹みたいな関係になれるのがベストなのかもしれない。


 そんなことを亜琉弓の横顔をちらりと見ながら思った。


 そして、島を一周したので戦艦へと着陸する。


 さあ、皆を呼んで砂浜でリゾート気分を味わうことにしよう。


 お楽しみの水着回だ!!!

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