第47話 ドジッ娘
俺が言い渋っていると、
「亜琉弓。よく聞きなさい。もうすぐここにも溶岩が流れてくる。森は飲み込まれて木々は灰となるわ」
「それじゃあ、ドリュアスが」
「助からない。だから、彼女はお別れを言ったのよ」
「だったらわたしの魔法で……」
「例えあなたの魔法でも、この大木をそのまま持ち帰ることはできないの」
「でも、やってみないとわかんないよぉ」
パシっと舞彩が亜琉弓の頬を叩く。こんなに険しい顔をした舞彩を見るのは初めてだった。
「ワガママを言わないの。ご主人さまを危ない目に合わせる気? あなたはご主人さまが大切じゃないの?」
そこで亜琉弓はボロボロを涙を流し始める。そして、俺の顔見て「ごめんなさい」と頭を下げた。その後は、舞彩に抱きついて泣き出してしまう。
その時、ふいに耳鳴りがする。そして、音声ではなく誰かが脳に直接語りかけてくるような声がする。
『サエキハルナオ』
だが、舞彩も亜琉弓も反応していない。空耳なのか?
『アルキュウニ コレヲ ワタシテ』
俺の掌に、黒紫色の一センチほどの実が落ちてくる。それはわずかにオレンジ色の光りを纏っていた。
ドリュアスなのか?
「これは、おまえの種か?」
「エエ、ワガコヲオネガイ」
俺は泣いている亜琉弓の手にこれを握らせる。
「え? なんですかこれは?」
「クスノキの実だよ。ドリュアスがくれた。この子を頼むって。亜琉弓はこの子も灰にする気か?」
「ううん。ハルナオさん、ごめんなさい。わたし、艦に戻ります」
亜琉弓は涙を手で拭い、表情を引き締める。そして、振り返ると大木に向かって手を振った。
「バイバイ。ドリュアス。あなたのことは忘れないわ」
『バイバイ。アルキュウ。ハルナオ。マイ』
――「ハルナオさま! 今どこですか?! 溶岩が南の方角に流れています!」
「えっと、まだたぶん、△印のとこだわ」
――「ちょ、溶岩来ますよ。間に合わないですよ!」
ちょっと長居しすぎたらしい。まあ、こういう時は落ち着いてと。
「舞彩。ここから高速艇まで距離はどれくらいだ?」
「四キロくらいでしょうか」
「こっから穴を掘って、直線で高速艇まで繋げてくれ。分解魔法で一気に掘り進めろ。イメージとしては滑り台のトンネルだ」
「わかりました。ですが、生き埋めになる可能性もありますよ」
「溶岩に飲み込まれるよりマシだよ」
「では、いきます。聖なる橙の大地の精霊よ。彼の方向へと大地を掘り進めよ」
しばらくして地面が窪み穴が空いていく。俺はそれに飛び込んだ。魔法はまだ発動中で、斜め下方向へと掘り進めている最中だ。
「みんな来い!」
舞彩と亜琉弓もそれに続く。トンネルは緩やかな下り坂となっているので、面白いように滑っていく。戦闘服を着てきたので、多少のダメージは相殺されるのだった。
「舞彩! 聞こえるか?」
俺は後方を滑ってきているであろう彼女に声をかける。
「はい、聞こえます。
「そろそろ溶岩が流れてくるから、上の方の土を元に戻して蓋をしてくれ」
「了解です」
これで、あとは高速艇まで一直線だ。
「キャー、目が回りますぅ!!」
後ろをちらりと見ると、亜琉弓がバランスを崩して、滑るのではなく転がっている。そりゃ、目が回るだろう。
少し先に光が見えた。ようやく出口かな。生き埋めにならんでよかったよかった。
まあ、生き埋めになったら舞彩の建設魔法で空間を作ってもらって、そこから地道に掘り進めるだけなんだけどね。
「うっひょーい!」
角度的の絶妙だったのか、滑り落ちたちょうどそこには高速艇の座席があり綺麗に着地する。というか、運転席へとタイミング良く座った状態になった。
次に落ちてきた舞彩も俺の隣の席へと着地する。うん、エレガントである。
「助けてくださいハルナオさーん!!」
ゴンと何か硬い物がぶつかった音がして高速艇が揺れる。
「あいたたたぁ」
後ろの席を見ると、あられもない格好で亜琉弓が頭をさすっている。その姿は頭を床につけ、足は天を向いて両側に開き、スカートは完全にめくれて……いやいや、これ全然エロくないぞ。
「出発するからな」
俺は高速艇を発進させる。せっかく涙ながらの別れをしてきたってのに、台無しじゃないか。
亜琉弓。おまえにはドジッ娘の称号を与えてやろう。
**
【10】はコンパネの図だと船尾、後部甲板部分だな。
カードを入れるとメインモニターに表示される。
【多目的輸送機スバルをプレイオネに取りこみますか?】
多目的輸送機? ああ、戦艦に搭載されていた水上観測機みたいなもんか? けど、この艦のスペックでは艦載機による弾着観測は必要ない。単純に移動用か?
モニターには【承認】と【棄却】の選択が現れたので迷わず承認をタッチする。
輸送機の方は、あとで後部甲板まで行って確認してみるか。
その前にもう一つ。
【0】と記載されたこの透明なカードだ。
それも同様にパネルに入れる。
モニターに出てきたのは次の文字列だ。
【隠密機能を有効にしますか】
そしてその下にはお決まりの【承認】と【棄却】の文字。
隠密って、内火艇の偽装機能なんか目じゃないほど画期的なものじゃないか。いわゆるステルスだろう?
俺は期待を込めて【承認】をタッチする。
「あ、ハルナオさま。隠密の機能を有効にしたんですね。それもカードですか?」
「ああ、あの島にはカードが二つあった」
「やはり、あの地図は不完全なものだったんですか。だとすると、兵装をコンプリートするのも苦労しそうですね」
あの地図だけでは全ての兵装を手に入れることもできないだろう。そもそも最大の目的である魔法ペンの×印が一つ足りないからな。地図に示されていない北の方にも何かあるはずだ。
「そうだな。さて、これで次へと向かうか。亜琉弓、近くに艦影はあるか?」
俺のその問いかけに、亜琉弓はぼーとして何かを考え込んでいる。ドリュアスのことを考えているのかもしれない。後でフォローしておくか。
「亜琉弓?」
「あ、は、はい。なんでしょう?」
「レーダーを見てくれ、艦影がないか確認してほしい。進路上にいたら困るからな」
「はい。えっと、北東の方角、六十キロに小型艦が六隻、あとは、西北西百キロの地点に中規模の艦隊ですね。大型艦一隻、中型艦四隻、小型艦六隻ほどの艦隊です。範囲を拡大しますか?」
「いや、これでいい。
「うん、わかった」
「次はこの変な丸っこい大きな島ですね」
今までは人のあまりいない島ばかりだったが、今度のは△印は内陸部の都市の近くにある。
さて、これからは人の多い所を探すことになるだろう。果たしてどんな出逢いが待っているのだろうか?
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