第39話 奪還作戦
「キアサージの前線基地であるエクニル島は、特殊な高射砲のおかげで五十キロ先に防衛ラインを引くことができています」
「龍譲帝国もなんとかあの島を攻略しようと苦労しているんだな」
「ええ、きっと何度も攻略に失敗しているのでしょう」
「だが、この戦艦ならなんとかなる。そうだな?」
「はい。通常の駆逐艦なら水平掃射の高射砲が数十発当たれば撃沈しますが、この戦艦なら本体の頑丈さとバリアのおかげで無傷でいられます。まあ時間制限がありますけど」
「舞彩。魔導防壁を全方位でフル稼働した場合、どれくらい持つんだ?」
「そうですね。被弾の状況にもよりますが、約八時間ほどですか。その後は防壁コアの冷却が必要となります」
「どれくらいだ?」
「一時間ほどです」
無敵時間にも制限があるってことか。
「ハルナオ。高射砲を無効化してもエクニル島には駐留艦隊がいるんでしょ? それはどう対処するの?」
「そっちは、どうにでもなるよ。まあ、
俺はしばらく考えると、作戦を頭の中で構築する。そして、皆に指示を出した。
「今回は舞彩に艦に残ってもらう。簡単な艦の操作でいいし、防御に徹するだけだ。その間に俺らがアイテムを奪還する」
「今回は
「ああ、
「あたしと
「
「うん、わかった」
「わ、わかりました」
二人が元気よく返事をする。
「ただし、艦への攻撃は船尾に集中しろ。舵とスクリューを破壊すればいい。それで行動不能になるはずだ。まあ、うっとおしいようなら砲塔と魚雷発射管も潰していい」
「え? 沈めないの?」
「俺たちは、あくまで中立の立場だ。この戦争に積極的に介入する気はないよ。だから、必要最低限の防衛に留める」
「うん、わかった。ハルナオらしいね」
「二人が艦隊を相手にしてる間に俺たちはエクニル島に上陸する」
「ご主人さま、くれぐれも無理をなさらずに」
「大丈夫だ。今回は、艦内で見つけた戦闘服を借りることにするよ」
俺が艦内を探索して見つけた戦闘服は、真っ黒なラバースーツのようなもので、胸の部分にタクティカルベストがついたものだ。
防弾性能も高いようで、俺が描いて実体化したM4カービンもどきの魔法弾を軽く跳ね返していた。これならば、キアサージの兵に反撃されてもケガを負うこともないだろう。
これも戦艦と同じく超魔法力で作られた物だ。
「よし、格納庫で待機だ」
**
現在は二十時過ぎ。
艦は闇に紛れて進んでいるが、察知されて高射砲による遠距離攻撃を受けている。だが、ダメージはほとんどないといっていいだろう。
いざというときのために、十八ノットの速度で移動している。ペンは四本刺しているので、最大三十ノットまで出るはずだ。最高速は駆逐艦には敵わないが、加速はこの世界の船に勝っているからな。それで攻撃を躱せればいい。
しかも今は夜間なので、目視できる距離は短い。やたら滅多ら艦砲射撃を行わないはずだ。
フルフェイスのヘルメット内蔵の無線から舞彩の声が聞こえてきた。これは戦闘服と対となる備品の一つである。
――「ご主人さま、キアサージ艦隊が前方六千メートルの位置まで来ました。出撃のご準備を」
「わかった。それから舞彩。艦を右方向に進路をとってくれ。エクニル島から艦隊を引き剥がすぞ」
「了解しました」
外からは艦砲射撃の音が響いてくる。さすがにこの艦に直撃はしていないが、近くの海に着水しているのがわかる。夜間だから目視できる距離が短いと踏んでいたが、実際は高射砲の着弾のせいで、一瞬だがバリアに薄い光が宿っている。そのおかげで、こちらの場所を割り出せたのだろう。
だからといって作戦が変わるわけではない。
――「キアサージ艦隊、左後方七時の方角、距離三千メートル」
舞彩からの通信が入る。
「
俺は前方で水上バイクに跨がる二人に指示を出した。
「わかった。暴れまくってくるね」
「が、がんばります」
二人が乗る水上バイクが側面に開いた開口部から出撃していく。その姿を見送ると、今度は隣に座る
「俺たちの出番はもうすぐだ。大丈夫か?」
はぁはぁと呼吸の荒い、少し緊張気味の
「はい! ハルナオさまと一緒にペアを組めるなんて、もう嬉しすぎて興奮しています!」
鼻息荒く、瞳を輝かせながら
――「ご主人さま。
「わかった。俺たちも出る!」
格納庫内のアームに持ち上げられ、俺たちの高速艇も側面から出され海へと着水する。
アームが離れたところで、俺は高速艇を発進させた。
島を回り込んで北西部を目指しながら進む。この高速艇は最高速で百八ノット(時速二百キロ近く)は出る性能、しかも小型なのでレーダーには映りにくい。
今キアサージの目はプレイオネに向いているので、かなり誤魔化せるだろう。
「うわー! きっもちぃー!」
「デートじゃないんだぞ」
「わかってますよ。けど、海上でこれだけ飛ばせるのって気持ち良くないですか?」
「まあ、たしかに気持ちいいよな」
と油断していたら、目の前に駆逐艦が現れた。百八ノットも出しているのでその距離はすぐに縮まる。
あやうくぶつかりそうになったところを回避。
駆逐艦の乗組員も何があったか理解できていないだろう。水上を百ノット以上のスピードで移動する船なんてこの世界にはないのだから。
あっという間に島に到着する。なるべく人のいない断崖絶壁の海岸へと高速艇をつけた。
舞彩を連れてくれば建設魔法で足場を作ってもらうのだが、今隣にいるのは
だから事前にお絵描きをして道具をいろいろ実体化しておいた。
俺が手にしているのはアンカーワイヤー射出機。
信号弾を打ち出すような少し大型の拳銃である。これを崖の頂上部へと撃ち込むと、アンカーが付いたワイヤーがそこに固定される。
「
俺はそう指示すると、これも
そのまま拳銃の方を操作すると、そのワイヤーが俺ごと崖の上へと巻き上げてくれる。
「第一関門突破ですね」
「まあな。
「わっかりました。親愛なる闇の精霊ちゃん、戦艦の兵装コアを探してちょ!」
しばらく待つ。すると
「半径二キロ圏内にコアはありませんね。ちなみに、東に七百メートル行ったところに兵舎がありますね。生体反応は百以上確認。メルの魔法で殲滅しますか?」
「却下だ。南回りで行くぞ」
「えー、せっかく魔法使えると思ったのにぃ」
「今回の作戦はアイテムの奪還であって、基地の殲滅じゃない。さっきも言ったろ。俺としてはこの戦争には関わりたくないんだよ。馴染みのない世界ってのもあるが、戦争なんてものにどっちが正義とかそんなものを求めてはいけないんだよ」
「じゃあ、自己防衛なら戦うってことですか。メルが危なくなったら助けてくれますか?」
上目遣いにあざとい台詞。おまえはそういう所だけは頭が回るんだから。
「助けてやるよ。言ったろ。俺はおまえたちを消させはしないって」
「それでこそハルナオさまです。だから大好きです」
調子良いなこいつは。
「はいはい。わかったから、おとなしくついてこい」
俺は
そういや、敵の基地のど真ん中なんだよな。周りは敵だらけだというのに緊張感がまったくない。まあ、こいつの言動で助けられている部分もあるか。
それに、超科学の戦闘服がなかったらビビってこんな作戦はとらなかっただろう。撃たれても被害はないから余裕だ。
ある意味無敵モードってことだが、ゲームだったら面白みがなくなっているだろうな。
さらに進むと飛行場が見えてきた。一番高い位置にある管制塔にはまだ灯りが点いている。現在の時刻は二十二時五分。
塔の裏手に行こうとしたところで、
「ハルナオさま。前方五百メートルの位置に警備兵です」
ヘルメットについた赤外線暗視装置を作動させる。軍服を着た短髪の大男が二人。格闘戦では絶対に敵わないであろうという相手だ。
「眠らせるか」
俺はスナイパーライフルタイプの麻酔銃を取り出す。もちろん、この銃は架空のもので俺が実体化したものだ。
これを使うのは二度目なので慣れている。といか、反動がないので、ほとんどゲーム感覚で扱えるのだ。
二人を眠らせるとバレないように処理をして先へと進む。
そろそろ、もう
「
立ち止まると彼女に指示を出す。彼女も「わかってますよ」的な顔で笑うと、例の呪文を唱えた。
しばらく待つ。
「コアありました。北東に一千二百メートル行った所にある司令部の建物の中……いえ、そこに併設してある施設ですね」
「よし、急ぐぞ。あまり
「ねぇ、ハルナオさま」
「ん?」
「メルって実体化してから七日目なんですよね」
「ああ、そうだな」
「
たしかにそうなんだよな。メルが消えてしまう期限まであと少しだ。躊躇してられないってのはわかっている。
「俺もそろそろ覚悟を決めなきゃいけないってはわかってるよ」
「覚悟ですか? そんなの必要ないですよ。欲望の赴くまま襲っちゃっていいんですよ」
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