第38話 高射砲の島

 第一艦橋メインブリッジ内は五つの席が埋まる。


 新しく入った亜琉弓アルキュウは、舞彩マイからレーダー手を引き継ぐことになった。集中力が必要な仕事なので亜琉弓には適していると思われる。


「ハルナオさま。この後の針路はどうしますか? 龍譲帝国方面に向かうか、アトラ大陸方面に向かうか、それとも別の航路をとりますか?」


 愛瑠メルが俺のモニターへと世界地図のコピーを表示させる。それにはアイテムがある場所の×や△が記載されていた。


「アトラ大陸方面へ行けば、△印だけじゃなく×印もある。五本目のペンも回収できるから、そちらを先にしよう」

「では、次の目的地はこのアトラ大陸の近くの△印のある島でよろしいですか?」

「ああ、島の情報解析と、座標を恵留エルに送ってくれ」

「わっかりました」


 そう言って、愛瑠メルはコントロールパネルで操作をし始める。


「亜琉弓。レーダー監視のやり方は覚えたか?」

「は、はい。たぶん、だいじょうぶです」

「まあ、慣れてないうちは、多少失敗してもいいよ」

「わ、わかりました。努力します」


 肩の力を抜けといっても今すぐにはどうにもならないのだろう。しばらくすれば慣れてくるのだから、それまでは場数を踏ませてやればいい。


「舞彩、愛瑠メルから機関制御を引き継いだと思うが、そっちはいけそうか?」

「ええ、問題ありません。ペンが四本になって出力も安定しています。防御管制の操作も完璧に覚えましたので、もうあのような失態をおかすこともないでしょう」


 失態って……あの時のことをよほど気にしているのかな。まあ、あまり過去のことに触れるのも彼女には逆効果になるかもしれない。


「ああ、よろしく頼む」


 では、出発準備に入るか。


「亜琉弓。レーダーの最大範囲内での他の艦隊の位置と動きを教えてくれ」

「はい。……え……あ、あの、これから向かう島の近くに艦隊が集結しつつあります」

「どれくらいの規模だ?」

「ざっとですが、大型艦が八隻、中型艦が三隻、小型艦が九隻、潜航艇が五隻です」


 大艦隊だな。問題はどちらの国の艦かだ。


愛瑠メル。艦の所属はわかるか?」

「すみません。細かい解析の範囲外なので、もう少し近くに寄らないと無理ですね」


 ならば距離を縮めるのみである。


「舞彩、出航準備だ。魔導機関に点火しろ」

「了解しました。魔導機関始動、フライホイール接続……エネルギー充填百二十パーセント。圧力安定」

恵留エル。錨を揚げろ」

「了解。巻き取り開始。引き上げまで、五、四、三、二、一、巻き取り終了」

「微速航行にてプレイオネ発進」

「プレイオネ発進します」


 緩やかに艦は進み始める。


「恵理。愛瑠メルの解析範囲まで来たら、一旦停止だ」

「うん、わかってる」


 わずかな緊張感が艦内に漂う。敵が切迫しているわけではないので、危機感があるわけではないのだが、それでもいつもの和やかな雰囲気とは違っていた。


 しばらく進むと、愛瑠メルが声を上げる。


「解析範囲に入りました。艦隊の解析を始めます」

「ハルナオ。船を停止したよ。錨を降ろす?」

「いや、現状のままでいい。すぐに動けるようにしておけ」


 さらに五分ほどで、愛瑠メルの解析が終わったようだ。


「艦隊の詳細がわかりました。航空母艦六、戦艦二、重巡洋艦二、軽巡洋艦一、駆逐艦九、特殊潜航艇五。艦隊の所属は龍譲帝国です」

「たしか、これから向かおうとしていた△印のある島は、キアザージの領だったよな?」「はい、ハルナオさまの仰るとおりあの島は、キアサージ連合諸州の領土です。正式名称をエクニル島というみたいですね」

「ということは、龍譲帝国の方から攻め入っているというのか?」

「そのようですね」

「ハルナオさん! 航空母艦から艦載機のような飛行物体が続々と飛び立っています」


 亜琉弓が声をあげる。


「メルも確認したよ。今解析するね」


 モニターを見るとエクニル島の西六十キロの地点に龍譲帝国の艦隊が集結し、そこから艦載機が発進していく。


 データだけ見るならまるで真珠湾の再来のようにも見えるが、この世界では情勢はかなり違っていた。


 そもそも龍譲とキアサージはすでに戦争状態にあり、これは奇襲攻撃でもなんでもないだろう。


 だが気になるのは、島に駐留する艦隊が出撃しようとしないところである。


 このままだと爆撃機からの攻撃で、駐留艦隊は全滅してしまう。まさか気付いていないというわけでもないだろうに。


「ハルナオさま。解析終了しました。航空機は二百十八機。うちわけは艦上攻撃機七十二、艦上戦闘機三十、艦上爆撃機百十六。すべてエクニル島へ向かっています」

「エクニル島には艦隊や戦闘機はいるんだろ?」

「はい、百機近くの戦闘機と、一個艦隊程度の戦艦や駆逐艦も確認できます」

「動いてないのか……」


 俺が違和感を抱いた途端、亜琉弓から声が上がる。


「ハルナオさん。飛行物体が消失していきます。エクニル島手前五十キロの地点で撃ち落とされているようです」


 射程五十キロの高射砲……長距離砲か? いや、次々と撃ち落とされているのだから連射しているのだろう。


 マジかよ? ありえなくはないが、この世界の科学力を考えると疑問が沸く。


 この世界の戦艦の主砲でさえ、有効射程は四十キロ前後だと予想されるというのに。


愛瑠メル。この世界の高射砲はそこまで高性能なのか?」

「いえ、この世界の技術力はハルナオさまの元いた世界の一九四〇年代程度のものです。こんな高性能な高射砲など作れないでしょう」

「だとしたら……まさか」


 考えられるのは超科学……いや、超魔力か。この戦艦と同じ世界で作られたとしたら。


「そうですね。メルも同様に考えます。この戦艦の兵装がなんらかの形で封印が解け、キアサージの基地で利用されていると」


 射程五十キロの高射砲……というより、ただの機銃と言った方がいいのか? この戦艦の対空機銃というのが本来の姿である可能性が高い。


「どっちかの国に加勢する気は無いが、放置はしておけないな。俺としては、戦艦の兵装を取り戻したい」

「そうだよね。勝手に使われてるのは癪に障るよ」


 と恵留エルは少し感情的に答える。自分の艦じゃないとはいえ、戦艦の備品を勝手に使われるのはやはり気分が悪いのだろう。


「ご主人さまの命に従います」


 舞彩はいつも通りの澄ました顔でそう答える。


「はやく兵装を取り戻しましょうよ!」


 愛瑠メル恵留エルと同じ意見ではあるが、気が逸る気持ちを抑えられないようだ。


「わ、わたしもハルナオさんに従います」


 亜琉弓は基本的に舞彩と同じかな。主の命令に忠実に従うタイプか。


愛瑠メル、エクニル島内の拡大地図と基地の詳細図を手に入れられるか?」

「ええ、なんとかやってみます」


 解析した情報から、効率の良い作戦を練ることにしよう。亜琉弓が加わったことで、作戦の幅は広がったはずだ。


「よし、情報が集まり次第エクニル島のアイテム奪回作戦を開始する」

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